恋の掟
出会い

三十路の決意

あたしは、今日とうとう30歳になってしまった。
楽しい事なんて何もなかった20代。
顔もスタイルも10人並だし、頭の出来もたいしたことない。
こんな私にも一応、彼はいるけどね。
牧村孝雄29歳。職場の同僚。同期入社だ。
悔しい事に同い年なのに早生まれで、まだ三十路に到達していない。
こいつも絵に書いたような平凡な男だ。

付き合いはじめて一年で、孝雄は転勤になった。
だから今は、遠距離恋愛中のあたしたち。
孝雄は一緒に来て欲しい…と遠慮がちに言った。
どうしてあの時、結婚しなかったんだろ?
と思う。
寿退社すりゃ良かった。
20代のうちにね…。
だけど、あたしの中の何かがノーって、言ったんだよね。
このまま結婚しちゃって、いいのかなって。
でも別れる勇気もなかった。
ひとりぼっちは嫌だから。
タイミングが来て、お互いに、そういう気持ちになったら結婚に踏み切ろう…と、孝雄は言った。

月に一度、仕事終わってからまっすぐ、孝雄の住む街へ向かう。
夜行バスに乗って…。

恋人に久々に会うウキウキ気分も最初の頃だけ。
今はただ、早朝に駅まで迎えに来てくれた孝雄のださいセダンに乗って、2DKの借り上げアパートへ行き、一緒に朝食を食べる。
お互いの近況を報告して、テレビを見て私は少しだけカウチで眠る。
夜は少しだけリッチな食事をし、短いセックスをしてひとつの布団にくるまり、朝を迎えるのだ。

翌朝は、たいして別れを惜しむこともなく、私はまた自分の家に帰る。

私たちはきっと、うまくいってる。
もう三十路なんだもの。
ときめきなんて、いらないよね。
そろそろ良い時期かもしれない。
私からプロポーズしちゃおうかな。
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