桜の花が散る頃に
「あ、いたいた!あんた達こんな暑い中外で何して…」

「しっ!!!!夏実に気付かれるだろ!!!」


小声でそう言うと、結城は不思議そうな顔をして俺達が見つめる先を見た。


「男三人で夏実を尾行って…マジ何してんの。」


呆れ顔の結城と、それに同調する虎丸。


「嫌なら帰ればいいだろ。俺は気になる!」

「はぁ?あんた達が呼んだんでしょ。大体何が気にな…」


勇気がそう言った時、夏実がキョロキョロと周りを確認した後、コソコソと公園のトイレに入っていったのを確認した。


「怪しい…。」

俺がそう言うと、結城はすかさず俺に拳骨を食らわした。

「何が、“怪しい…”よ!ただ帰り道にトイレ行きたくなっただけでしょーが!女子がトイレに入るのを眺めてるあんた達の方がよっぽど不審者だっつーの!」


言われれば確かに…


「大体、人には隠したいことの一つや二つあるで…しょ」


そう言った結城の言葉が、止まった。
俺達の呼吸も、止まった。

トイレに入っていった夏実が、隣町の高校の制服を着て出て来たのだ。

それも、男子の制服を着て。


「あれっ、て、本当に夏実?なんで、雪走高の男子制服なんか着て…」


さっきまでの結城と、まるで態度が変わる。

全員が戸惑いを隠せない。
夏実は男だった?いや、そんな訳ない。


喋る事も忘れて夏実をつけると、彼女が入って行ったのはこの都会では珍しい一軒家、しかも大きな豪邸。

塀に囲まれており、監視カメラも付いている。

どう考えたって金持ちの家。
どう考えたって、この家の子供が公立の氷柱高に来る訳がない。

どちらかと言えば隣町の私立高、雪走高だ。


夏実は、何を隠している?

知りたい気持ちと、これ以上知りたく無い気持ちが3人に纏わりつく中、虎丸が冷酷な目をして言った。


「門あっちみてーだけど、行かねえの?」


なんでそんな堂々としてられるんだ。

俺は、ここまで内緒でつけてきた後ろめたさに襲われた。

そんな俺に、虎丸がとどめを刺しにくる。


「お前らは夏実に何か秘密事をされてるのが悔しかっただけだろ。夏実が何かを隠すなんてよほどの事情がある、それも分かってるくせに、ただ悔しいってだけで夏実のプライベートを勝手に覗き見て、んでモヤモヤしたまま帰ろうってか。明日どんな顔して夏実と会う気だよ。俺は自分の意思で来たわけじゃねーけど、今日見たことを忘れて明日からまた仲良く、なんて出来る人間じゃねえ、だから今から夏実に聞きに行く。その結果夏実に嫌われて目も合わせてもらえないかもしれねえ。それが嫌な奴は今すぐ帰れ。今日見た事全部忘れて夏実を信じてこれからも夏実と仲良くしたい奴は今すぐ、帰れ。」


全くその通りで、返す言葉なんてない。

夏実に嫌われるのは嫌だ。

でも、夏実を信じられなくなるのはもっと嫌だ。


俺達は、恐る恐るその豪邸の門のベルを鳴らした。
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