クールな弁護士の一途な熱情




その日、仕事を終えた私は西新宿から移動して品川駅の改札を出た。

秋物の薄手のコートをなびかせ歩く足を止めた先には、ひとりの姿が見える。



「果穂、お疲れ」



私を呼んで小さく手を振るのは、仕事終わりなのだろう白いシャツにジャケットを羽織った森くんだ。



「森くん。お待たせ」

「いや、俺もさっき来たところ」



森くんは、私が都内に戻ってからも度々こうして会いに来てくれる。



仕事のあとに待ち合わせをして、ご飯に行く。それだけの仲。

だけど関係の進展を急かすことなく、他愛もない話をしてくれる彼の存在に救われている。



「そうだ。今週末花火大会行かないか」



駅近くのお店に向かう途中、森くんからの誘いに私は首をかしげた。



「花火大会?この時期に?」

「毎年藤沢のほうで秋の花火大会があるんだよ。俺、夏は自分の店で出店やってたから見られなくてさ」

「あー、そうだよね……」



そういえば森くん、夏の花火大会の時に出店やってたっけ。

その光景を思い出すと自然と頭に浮かぶのは、隣を歩く彼と花火の下のキス。



ほんの数秒、思い出すだけで胸がチクリと痛む。

その痛みをこらえるように、ぎゅっと拳を握った。

すると森くんは、私の短い無言になにかを察したかのように続いてたずねる。



「あ、なにか用事あった?」

「えっ?ううん、大丈夫。行こ行こ」



それに対して私は笑顔を作ってなんてことないように笑った。



忘れたいのに。

彼の面影がふとした瞬間蘇ってこの胸を締め付ける。



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