クールな弁護士の一途な熱情



「花村さん。こちら、明日から事務員として働く入江さん」



って、ちょっと!勝手に話進めないでよ!



「あら、やっと決まったんですね。でもどうしてずぶ濡れ……あ、このお洋服はもしかして彼女に?」

「まぁいろいろあってさ。どこか着替えられるような部屋に案内してあげて」



静の指示に、花村さんというらしいその女性は頷くと、私を連れて部屋を出てすぐ前の個室へ入った。



ここはきっと依頼人との相談室なのだろう。

横長いテーブルに椅子が4つ並んだその部屋は、大きな窓から外が見え開放感がある。

さらには通路側もガラス張りになっていて、弁護士事務所というイメージについてくる堅苦しさを取り払うかのような作りをしていた。



思わず室内をキョロキョロと見回していると、花村さんは手にしていた紙袋を私へ手渡す。



「私の趣味で選んだもので申し訳ないけど、これ着てね」

「すみません、わざわざ服用意していただいて」

「いいえ、いいのよ。でも先生からいきなり『女性物のMサイズの服適当に用意してくれ』なんて電話があったから、何事かと思っちゃった」



ふふ、と笑う花村さんに、先ほど車で静が電話をしていたことを思い出した。

あの電話は花村さんへかけていたものだったんだ。



あのまま家に届けて、『悪かった』のひと言でほっぽりだすこともできたのに。

わざわざ服を用意させたりして……そういう律儀なところ昔から変わらない。



すると花村さんは、窓際と通路側のブラインドをサッと下ろしながら問う。



「それで、本当に明日からバイト来てくれるの?」

「え?」

「さっきの話、先生が強引に進めてたみたいだから。私たちからすると人手が増えるのはありがたいけど、あなたはそれで大丈夫?」



私がまだ同意していないことはお見通しだったのだろう。

笑顔のままたずねられ、答えに詰まる。



そんな私に花村さんは無理に答えを迫ることなく、「廊下に出てるね」と部屋を出た。


< 23 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop