貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
「これでも一応貴族社会にいたので、噂は知っていますよ」

「狐憑きの花菜姫。あはは」

自分がそう言われていることは十分承知だったが、トキの正直な物言いに思わず笑った。

「すみません」
「いいえ、いいのよ。そう言われていることは知ってるわ。白狐の花菜姫ってね」

花菜は胸の前で拳をつくり、コンコンと狐の真似をしてみせた。

トキがクスっと笑う。

「でも見初められたっていうのは、ちょっと納得していないわね」
「結婚を申し込まれたのにですか?」

「なにか、そのほうがいいっていう理由があるのよ、きっと。李悠さまが私を見初めるなんてこと有り得ないもの。理由もよくわからない、そんな策略めいたことに巻き込まれるのは悲しいわ」
「誰の目にも、姫にとっていいお話なのに?」

「いいお話……。綺麗な衣は着れるでしょうね。沢山の女房たちにかしずかれて、何不自由ない暮らしかもしれない。でも、愛されてもいないのに、邸の奥で、ただ夫を想って過ごすだけの毎日が楽しいと思う?」

「貴族の姫ならば、それが幸せというものでしょうに」

「私は白狐の花菜姫よ。普通の姫と一緒にされては困るわ」

うふふと笑う。
笑いながら、全くもってその通りだと花菜は思った。
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