闇の果ては光となりて
第六章 全ては光の先へと
あの日から何日か過ぎ、夏休みは目前に迫ってた。
お母さんに会いに行くという決断をした癖に、踏み切れない私が居た。
16歳の何も持たない私に出来ることなんてあるのかと考えてしまうと、行動に移せない弱虫な自分が嫌になる。
舞美さんと岸部博は、あの後薬物違反で警察に捕まったと聞く。
彼女はかなりの常習者で、霧生がその証拠を彼女の部屋で手に入れたいたんだとか。
売人としても動いていた彼らの処分は重いものになるだろうと、総長が言ってた。
舞美さんは、何処でボタンを掛け違えたんだろうな。
霧生と関係する前から、岸部博とは関係していたみたいだし、彼女のやりたかった事があまり良く分からないや。
霧生の実家の遺産目当てだった事を言ってた気がするが、そんな物で本当の幸せを彼女は手に入れられていたんだろうか。
私から言わせれば、多少のお金は必要だけど、お金があっても幸せになれたとは、到底思えないよ。
舞美さんがお金に固執したのは、高校生に入った頃に実家の商売が失敗し、それまでの生活とは違う質素な生活を強いられた事が大きいのかも知れない。
そこに彼女の心を変えてしまう何かがあったんだろうか。
今となっては、私達には分からない事だけれど。
彼女が罪を償い悔い改めてくれる事を願う。

私の近況としては、とにかく穏やかに過ごせてる、の一言に尽きる。
義父からのちょっかいは今の所ない。
野良猫のみんなが全力で守ってくれてるのもあって、私に手出しできないのだろう。
あの人から、義父を引き離さない限り、本当の意味での平和は来ない事は分かってる。
早く···あの人と話をしなきゃ駄目だよね。
そう思うのに、実行に移せていない。


「神楽、用意できたか?」
突然開いたドアに驚いて目を見開く。
「だから、霧生。部屋に入る時はノックしてよ」
最近の霧生は、私に対して全く遠慮というものが無くなった。
親しき仲にも礼儀ありだと、何度言っても分かってもらえないのが、目下の悩みだ。
「お前は俺の物だから問題ねぇ」
「いや···だからね」
そうじゃないんだよね、同じやり取りを何度もする事に疲れ大袈裟な溜め息を吐き出した。
「んだよ?」
「何でもないよ」
首を左右に振った私を、霧生は抱き締める。
この温もりに絆されてしまうのは、私のイケないところだよね。
でも、安心する温もりにホッとしちゃうんだもん。

「その服似合ってる」
耳元で囁かれ、心臓が飛び跳ねる。
「あ···うん、ありがと。でも、買ってもらっちゃって良かったの?」
眉をへの字に曲げ霧生を見上げた。
「問題ねぇ。男が女に服を送るのは、それを脱がす為だって知ってるか?」
ニヤリと口角を上げた霧生が妖艶に微笑んだ。
これ以上、私をドキドキさせてどうするつもりよ。
高鳴り過ぎた鼓動の苦しさに思わず目を瞑ったら、チュッと可愛い音がして、私の唇に何かが触れた。
一気に体中の熱が沸騰する。
「今日は、これで勘弁しておいてやる」
驚きに目を見開いた私の目に映ったのは、真っ赤になったであろう私を見て、霧生が幸せそうに微笑んだ顔だった。
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