相思相愛ですがなにか?
うんうんとうなりながら、紙束と格闘すること数分。
早くも頭がパンクしそうになっていると、携帯電話が着信を知らせたのだった。
「もしもし、月子です」
「久喜です」
電話はリンネットのデザイナーである久喜さんからだった。
「デザイン案が出来た?」
「はい。是非ともお二方にチェックして頂きたいのですが……」
リンネットを訪ねてからまだ1週間しか経っていないというのに、もうデザイン案が出来たというのか。
早すぎないかと思いつつも、久喜さんのデザイナーとしての腕を鑑みるとこれくらい普通なのかもしれない。
「ちょっと待ってくださいね」
久喜さんが指定してきた日時のスケジュールを確認すると、私にも伊織さんにも特別な用事は入っていなかった。
「大丈夫みたいです」
「それではご来店をお待ちしております」
私は電話を切ると早速伊織さんに婚約指輪のデザイン案が出来上がったことを連絡しようと携帯を操作した。
(あれ?なんで私のところに連絡してきたんだろう……)
ふと、疑問が浮かんできて、メッセージを送る手が止まる。
注文主はあくまでも伊織さんなら、まず彼に話を通すのが筋のはずでは?
(気にしすぎよね……)
細かいことは気にしない、気にしない。
招待客リストの暗記という単調な作業が続く中で唯一の楽しみである婚約指輪の話に水を差すようなことはしたくなかった。