恋のレッスンは甘い手ほどき


望と別れて、ホロ酔いで帰路に着く。
10月に入り、昼間は暑い日もあるが、夜は一気に涼しくなり薄手のトレンチコートがちょうどいい。

綺麗に輝く月を見上げて、望の言葉を思い出した。
望が言うように、恋愛対象として有りか無しかで言ったら、貴也さんは有りだろう。
だって、イケメンで優秀な弁護士のエリートで、背も高くてモデル体型で、性格だって悪くはない。ちょっと俺様気質はあるけど、優しいし穏やかだ。
周りが騒ぐ理由もよくわかる。

それと同時に、なんかテレビの中の芸能人のようだなとも思うのだ。
キラキラした芸能人。格好いいな、素敵だなとときめくけれど、そんな遠い存在の人とどうこう起こるなんて微塵も考えない。
所詮はテレビの中の人だ。
憧れ……。
そう、私にとって貴也さんはそんな存在に近い。

だからね、望。
私と貴也さんは偽恋人以上になるわけがないんだよ。
その考えは、妙に自分の中にストンと落ちた。

「望には理屈で考えるなって言われそう」

ふふっと笑みが溢れた。

そして、あっという間にマンションに到着する。コンシェルジュに軽く会釈してからポストを確認すると、私宛にハガキが届いていた。
ハガキは転送されてきたようで、以前のアパートの住所の上に今の住所が書かれたシールが貼ってあった。
なんだろう?
裏をめくると、出身大学の学部同窓会と書かれてあった。

「同窓会なんてやるんだ。今月末? 意外と近々ね」

私がいた学部は経営学部だった。
料理サークルに入ったことがきっかけで料理に興味を持ち、大学卒業後に調理師専門学校へ入って調理師になった。
ちなみに望も同じ学部で一度は良い会社に勤めたが、今は紆余曲折の末、調剤薬局で事務職をしている。
当時の友達たちとは大分疎遠になっていたが、その頃は男女問わずみんなでよく遊んでいた。

みんな元気だろうか?
懐かしい。同窓会か、行こうかな。

当時を思い出して、ふふっと笑みが浮かぶが、幹事の名前にその笑顔が凍りついた。

「幹事 渡辺陸」

その懐かしい名前に一瞬呼吸を忘れてしまった。

「陸くん……」

思わず言葉として口から漏れる。
自分で呟いた声に胸が痛んだ。



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