愛を捧ぐフール【完】
 数秒だけだったキスには、ファウスト様の気持ちが全て詰まっているようだった。


 ぺろりと唇を舐める彼の碧眼は、隠しきれない熱が宿っている。普段の穏やかさをどこかにやってしまったファウスト様は、私の腰に手を回してグッと自身に密着させた。


「やっと、〝今の僕〟に言ってくれた」


 妖しい雰囲気を纏いながら、少年のようにはしゃいでファウスト様は心底幸せそうに微笑む。
 その無邪気な笑みに、罪悪感がつのった。


 私は、今世は私を諦めて幸せになって欲しい、と続けるつもりだったから。


「ねえ、クラリーチェ。君はずっと僕との身分の違いとお互いの婚約について気にしていたね?」

「ええ……」

「もし、それが無くなったら?君の憂いは晴れるのかな?」

「え?」


 目を瞬かせた私に、ファウスト様は笑みを深くする。


「僕が今の名前も地位も捨てて王太子でもなくなっても、僕を愛してくれるかい?」

「当たり前です。私はファウスト様が王太子様だったから、好きな訳じゃありません」
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