アイスクリームと雪景色
4年前 11月下旬――
 
26歳の誕生日を迎えた翌朝、いつも通りに出勤の仕度を整えアパートを出る直前、美帆は強烈な願望に支配された。

(今年のクリスマスは独りで過ごしたくない)

ひんやりとした晩秋の風に吹かれながら通勤路を歩くうち、それはますます増幅し、脅迫的に美帆を焦らせていった。

26歳

人により捉えかたは様々だが、美帆にとって26歳というのは微妙な年齢だった。26と27では、数字から受けるイメージが「かなり違う」と、感じる。

若さという有利な条件で彼氏を見つけるならば26歳がラストチャンスだと、彼女にはそんな思い込みがある。

クリスマスシーズンの入口に差し掛かり、「イブを誰とどうやって過ごすのか」という話題が社内のあちこちで盛り上がる時期というのも、彼女を焦らせる要因だった。

日本における一般的なイブの概念とは、「恋人達の甘い夜」に他ならない。

ほんらいの聖夜とは意味が違っているとわかってはいるが、美帆もイベント乗っかり国に暮らす女性の一人である。

周囲の動静を気にせずにはいられなかった。
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