アイスクリームと雪景色
「だからって、わざと仕事をミスして、私とあなたを引き裂くなんて普通じゃないわ。そんな低レベルな女を愛するなんて、どうかしてる」

坂崎がテーブルを叩き、弾みでコーヒーカップが跳ねた。

美帆の心臓もビクッと跳ね上がる。

「君はそれほどまでに、僕を欲してくれるか? 必要に感じるか? そうじゃないだろう。初めから君は、僕ではなく順当な人生が欲しかっただけだ。僕は、そのためのコマであり……」

坂崎は一旦言葉を切り、興奮を抑えるように息を整える。彼の額に汗が光るのを見て、美帆は言葉を失う。

「君はいつだって、自分のペースでことを運ぼうとする。人がよさそうで、実は他者に対して冷たい女だ。もちろん、僕に対してもね」

吐き捨てるように言うと坂崎は立ち上がり、そのまま振り向きもせず出口に向かった。

靴音が遠ざかり、会計を済ませる音がして、やがて彼の気配が消える。

あとに残されたのは、冷めてしまったコーヒー。

そして、かつて感じたことのない胸の痛み。

美帆は微動だにせず、誰もいなくなった椅子を、長い間見つめていた。
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