アイスクリームと雪景色
「……坂崎さん」

小次郎さんとうっかり言いそうになり、冷たい汗を掻く。

坂崎から数歩遅れて、ゆっくりと近付いてきた影が、淡いライトに照らされる。男への未練を絶対に悟られてはならない女、氷川ルナだった。

「成田さん、こんばんは。あの……お久しぶりです」

「こんばんは」

ぺこりと頭を下げるルナに、感情を抑えて挨拶を返す。

坂崎の現在の恋人。美帆を惨めにさせる最大の原因である彼女が、長い睫に縁取られた大きな目で、瞬きもせずこちらを凝視する。

ベージュのチェスターコートに地味色のストールを合わせ、坂崎のスーツと同じグレイのスカートを穿いている。足元はローヒールのショートブーツ。

24歳の女性にしては地味なコーディネートだが、35歳の坂崎と釣り合いが取れている。その従順な装いに、彼女が選ばれた理由をはっきりと思い知らされた。

「君に会ったら渡さなければと、持ち歩いてたんだ」

「えっ?」

何のことだろう。

坂崎はコートの内ポケットを探ると、小さな袋を取り出す。

「これを」

「……?」
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