【シナリオ版】釣った夫は腐ってました!~鈴ノ木夫妻の新婚事情~
松島も光一も、驚いた顔で華を見やる。場の空気がすっと冷たくなった。
あんまり強く否定するのも、おかしかっただろうか。でも、いまの光一に彼と会えたことを喜んでいるなんて思われたくなかった。華にだって、多少のプライドはあるのだ。

光一「ふぅん」
光一は華をちらりと見たが、それ以上はなにも言わなかった。
松島「ごめん、ごめん。会社でひやかされたら、そりゃ嫌だよな」
微妙な空気になってしまった華と光一を、松島が慌ててフォローする。
が、光一は硬い表情のままだ。

華(なにこの空気……き、気まずい)

そんな時、ちょうど受付に近づいてくる男性客の姿が目に入った。華はこれ幸いと二人に
「すみません、お客様みたいです」と告げて、受付の仕事に戻ることにした。

華「お待たせ致しました。お約束でしょうか」
営業スマイルを浮かべて、目の前の男性に声をかける。
成人男性としては痩せすぎで、
不健康そうな印象の男だった。目を覆うほど前髪が長く、スーツもよれよれ。お世辞にも洗練されているとは言い難い容姿だ。
けれど、そんなことはもちろん顔には出さない。
長年受付業務をしていれば、色んなタイプの客がいることはわかっているし、地位のあるエリートでも容姿に無頓着な人間は結構いるものだ。

新庄「三島物販の新庄です。システム課の田中さんに用があって……アポはないんですけど、急用で……」
男は外見の印象と違わない、ボソボソとした気弱な話し方をする。
華「かしこまりました。では、田中に連絡を取りますので少々お待ちいただけますか」

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