彼女を10日でオトします
「キョンって泣き虫なの?」

 片手で私の背中を撫でながら、もう片方で器用に私の眼鏡を外す。

「バカ……。そんなことない、わ……」

 ちょうど10年。
 涙がかれはてるまで泣いた日から。それからは、本当にかれはててしまったかのように、涙なんて出てこなかった。

 ちょうど10年前のあの日に比べれば、どんなことも悲しいなんて思わなかった。

 お姉ちゃんと貴兄が結婚した日だって。

「じゃあ、俺、キョンを泣かすの天才なのかも」

「最低」

 違うのよ。今、気付いた。涙が流れるのって、悲しい時だけじゃない。

 現に今、トイレでも、初めて合った時も、悲しかったわけじゃない。

 ホッとしたのよ。たぶん。
 戸部たすくの手の平は、とても温かいから――。

「キョン、だいじょーぶ。
俺が苦悩から解放してあげるから」

 コイツの『だいじょーぶ』は魔法だ。本当に大丈夫な気がしてくる。

「たすくさん、頭、イカれてるんじゃない?」

「あ、ばれちった?
俺の頭はね、欠陥品なの」

「ねぇ……、ありがと。不本意だけど」

「にしし」

 もう一度、私の頭を撫でた。
 その手は、やっぱり、温かかった。

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