彼女を10日でオトします
 両替機に千円札突っ込んで、取りあえずの軍資金。
 
 スロットが置いてあるところをぐるっと回ってみる。
 
 平日の夕方なのに、けっこう台が埋まっちゃってる。
 
 俺は、「八代将軍」の台に座った。旧台の方。本当はね、あんまり好きじゃないんだ、この機種。 
 なんでかというと、悪代官を捕まえ損ねたときの不快感ったらないのね。
 
 わざと逃がしてるんじゃないのー、って思っちゃう。いつの時代も政治の世界って真っ黒なんだから。
 
 お、画面がよく動くねぇ。なかなかいいんじゃない?

 だいたいは眉毛をくいくい動かしている将軍サンと、巻物を目を走らせるじいが画面にぴったり張り付いたままなんだけど、たらいやら俵やらがよく落ちて、姫が時々横切ってくれる。
 
 スロットに熱中していると、不意に、携帯が震えた。
 ディスプレイには、「ヒデ」の2文字。
 
「ほーい、たっしーでーす」
 
『たすく、今どこいんの?』
 
「高円寺」
 
『いねーじゃん』
 
「あーー! キターー」
 
 ちょっと、ちょっと、入ったんじゃないの? 将軍サン!
 
「ってことで、ヒデちゃん、先に行っててくんね? ごめんよお」
 
『なに? スロット? んじゃ、“純情商店街”のカラオケにいるから』
 
「ういー」
 
 携帯を閉じて、目押しの準備。うし、やるぞ。
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