彼女を10日でオトします
 キョンは、眼鏡のつるに手をかけて、一気に外した。

「これ」手のひらに眼鏡を載せて俺に差し出す。「これ、たすくさんが持っててくれない?」

 いきなりの奇行に戸惑う俺の手をつかんで、キョンはそれを俺に握らせた。

「大丈夫……? これ、無くて、平気なの?」

「数字ばっかりで、疲れちゃうと思うけれど。
眼鏡が無い方が、空の青が綺麗にみえるの」

 キョンは、笑顔いっぱいの顔で空を見上げた。
 笑顔の粒がほろほろ、と零れて、俺の胸を侵食する。

 心臓がつん、として、震えて、苦しくて。
 それでも、嬉しい。

 キョンが笑ってる。
 ちょっと、よくわからないことになっちゃったけれど、いいよ、もう。

 キョンが笑ってるんだもん。

「キョン、抱きしめていーい?」

「さっき、痛いほど、抱きしめてたじゃない」

「じゃあ、ちゅー」

「お礼はもう済んだはずよ」

「はぐむぐ。俺、ちゃーんとこの耳で聞いちゃったんだから」

「何を」

「俺のこと『あなた』って言ったでしょ、さっき」

「い、言ってないわよ」

「言ったね。そういう悪い子には、お仕置きなんだからあ」

 キョンを再び引き寄せた。今度は、優しく、大事に腕の中に収める。

「俺、もう、遠慮しないから」

「初めから遠慮しているようには見えないわよ」

「キョンが誰かに好きだって言おうとしたって、その逆だって、全力で阻止する」

「それ、我が侭っていうんじゃないの?」

「我が侭だって、なんだっていいの。
俺、キョンと幸せになるんだから。決めたの」

 俺の鎖骨におでこを押し付けて、キョンは、「私も、幸せになりたい」と、呟いた。
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