きみが泣いたら、愛してあげる。
06.居酒屋から駆け落ち


06.居酒屋から駆け落ち



○丘の上・綺麗な夜景(夜)


圭「俺のこと好きになってよ」


そっと唇に触れる圭の冷たい指。びく、と肩を揺らした杏花は、ぎゅっと目を閉じて圭の腕を掴む。


杏花「っ、ばかじゃない…」


掴んだ腕を自分から離して、圭の胸板を押し返す。



杏花「ならない…好きに、ならないから」



必死に絞り出して声でそう言って、杏花が顔を上げると傷付いた顔をした圭がいた。その泣きそうな顔に、ズキンと胸が痛む。



圭「…ごめん、焦りすぎた」

杏花「…私こそ、ごめん」


何だか気まずくて、視線を落とす2人。





〇杏花のオフィス(朝)


暗い表情の杏花。ポケットの中で鳴ったスマホをちらりと見ると、『永瀬 圭:杏花さん、今日会える?』の文字。杏花は『ごめん、忙しい』とだけ返してまたスマホをポケットにしまう。


杏花(……あれから2週間くらい、圭くんはいっぱい誘ってくれるけど、一度も会ってない。……だって、このままじゃ、うっかり好きになってしまいそうだから)


杏花(さすがに大学生に本気になったって、傷付くだけだよなぁ。そろそろ真剣に婚活も始めなきゃいけないのに)



給湯室で興奮気味に話している女子社員たち。そこを通りかかった杏花。


女子社員1「ねえ聞いた!?社長の息子来てるらしいよ!」
女子社員2「ね、すごいイケメンだって!見に行きたい〜〜!」



杏花「え…」

杏花(社長の息子……って、圭くん!?)



女子社員1「社長の息子ってことは玉の輿でしょー、それにイケメンなんて最高じゃない?!」
女子社員2「どうにかして仲良くなりたい〜」


杏花(忘れかけてたけど、圭くんって本当に社長の息子なんだなぁ…)



○オフィス、廊下(昼)


ぼーっと廊下を歩いている杏花。と、きゃ〜〜!と黄色い声が聞こえて顔を上げる。そこには向こうから社長と一緒に歩いてくる圭が。

圭も杏花に気付き、「…久しぶり」と微笑む。その笑顔に思わずドキッとしてしまう杏花。
すれ違いざま、「ひ、久しぶり…」と呟いた杏花の声は、女子社員たちの黄色い声にかき消される。



女子社員1「格好いい〜〜!」
女子社員2「あの、もしよかったら今日の夜飲みに行きませんか!?」
女子社員3「大学生だよね!?」


杏花の声が届く前に、女子社員たちに囲まれてしまう圭。困ったように笑っている圭に、杏花は少し寂しくなる。




○オフィス・自分の席(夕方)


パソコンに向かっている杏花に、話しかける女子社員(青木さん)。


青木「ねえ片山さん、合コンしない?」

杏花「え、合コン?」

青木「今日の合コン、1人行けなくなっちゃって…この前彼氏と別れたって聞いたから、もしよかったら」

杏花「うーん、合コンかぁ」
(正直今はそういう気分じゃないけど…)

青木「お願い!隣の部署のイケメン揃いだから!それとも予定とかある?」

杏花「うーん、予定はない…けど」

青木「じゃあお願い!」

杏花「う、うん…」



青木の圧に押されて頷いてしまう杏花。パアッと目を輝かせて「ありがとう!じゃあ後でね!」と青木は去っていく。



○居酒屋・終業後


かんぱーい、とビールグラスを合わせるみんな。


杏花(どうして…どうして…)


隣の部署のイケメンたちと、杏花の同期の女子社員たち。そしてそこに混ざる圭。


杏花(どうして圭くんがいるの!?)



青木「いやー、圭くんが来るって聞いた時はびっくりしたけど嬉しい!」
女子社員1「他の人にも誘われてたのにどうしてこっち来てくれたの〜?」
女子社員2「誰か気になる人でもいた!?」


テーブルの端にいる杏花と、反対端にいる圭。できるだけ顔を合わせたくないと縮こまる杏花。


圭「まあ、そんなところですね」


え〜〜!誰!?と盛り上がる男女。ちらり、と杏花に視線を向ける圭と、必死に目をそらす杏花。



女子社員「ちなみにどんな人がタイプなの!?」


圭「うーん、髪は長めで、モカブラウンのゆるいパーマで」


モカブラウンにゆるいパーマの杏花を見つめながら答える圭。


圭「強がりで、大人っぽくて、でも酔うと子供みたいで」


必死に目をそらす杏花。


圭「でも全然相手にされてないんすよね」


女子社員「えー、信じられない!」
女子社員「じゃあ私にしなよ〜」


ちやほやされる圭にモヤモヤしてしまう杏花。突き放してるのは私なのに…。




(1時間後)


みんなお酒が回って席を移動したり騒いだりしている。ちょうど空いていた杏花の隣の席。
杏花は前に座っていた男性に話しかけられる。


男「ねえねえ、杏花ちゃんだっけ」

杏花「あ、はい…」

男「可愛いよねー、もしよかったらこの後…」



何か言おうとした彼は、杏花の隣に来た人影に驚いて口をつぐむ。
空いていた杏花の隣の席にどかっと座る、ビールジョッキを片手に持った圭。
ドキッとしてしまう杏花。




圭「忙しいのに合コンは来るんですね」

杏花「ごめん……」

圭「まあいいけど、会えたし」

杏花「……」


ぐい、とビールを飲む圭。杏花もどうしていいかわからず、頬を赤くしたままお酒を飲む。



圭「…俺のこと嫌い?」

杏花「…そういう、わけじゃ」

圭「じゃあ…」



圭がなにか言いかけた時、女子社員が2人の方を見る。


女子社員「あーっ、杏花ちゃん抜け駆けしてる!」
女子社員「本当だ!ずるい、ほら飲め飲め!」


酔ったみんなにお酒を持ってこられてしまい、眉を下げて笑う杏花。
(まあこのくらいなら飲めるけど…)と思って飲もうとすると。



圭「…」


すっ、と無言でグラスを取り、ぐいっと飲み干す圭。驚くみんな。


女子社員「ちょっと圭くん、優しい〜!」
女子社員「もしかして狙ってるのって杏花ちゃんだったり!?」


騒ぐみんなと、杏花の腕を掴んで立ち上がる圭。



圭「…酔った。外の空気吸いに行こ」

杏花「え…」



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