きみが泣いたら、愛してあげる。
08.ずるい体温


08.ずるい体温


○会社の前(夜)


杏花の会社の前で待っている圭。出てきた杏花を見て嬉しそうに頬を緩める。杏花も笑って圭に駆け寄る。

モノローグ(あれから圭くんは、よく私の仕事帰りに会いに来るようになった。
このまま曖昧にしておくなんてよくないって、分かってるけど…)



圭「お疲れ様」

杏花「圭くんもお疲れ様。…いいの?いつも来てくれるけど、大学の課題とかバイトとか忙しいんじゃ…」

圭「んー?でも杏花さんに会いたいから」

杏花「っ…」


ドキッとした杏花に、ふっと満足げに笑う圭。2人で並んで夜の道を歩く。少し頬の赤い圭。


杏花「今日もご飯食べに行く?どこがいい?」

圭「あ…どこ行こうか。杏花さん何食べたい?」


少し上の空の圭。異変に気付く杏花。


杏花「…なんか今日おかしくない?どうかした?」

圭「え…いや、どうもしてない」

杏花「嘘だ、なんか顔赤いし…って、すごい熱じゃない!」


圭の額に手を当てた杏花が慌てて圭の顔を覗き込む。少し息の荒い圭。


圭「…なんで気付くの、誰にも気付かれなかったのに…」

杏花「そんなこといいから家帰るよ!家どこ?」

圭「いや、大丈夫だから…杏花さん家まで送っていくよ」

杏花「ばか、全然大丈夫じゃないでしょ。ほら行くよ!」


2人でタクシーに乗りこんで圭の家に向かう。


○タクシーの中


杏花の肩に頭を預ける圭。


杏花「大丈夫?つらい?」

圭「んー、平気…」


タクシーに揺られて目を閉じる圭。
(まつ毛長いなぁ)と綺麗な横顔を見つめる。


タクシー運転手「着きましたよ」

杏花「え…ここ…?」


そこにあったのはドラマに出てくるような高級タワーマンション。
呆気に取られている杏花に対して慣れたようにマンションに入っていく圭。
エレベーターで最上階のボタンを押す圭にまた驚く。



○圭の家


カードキーでドアを開け、中に入る圭。

(カードキーなんてホテル以外で初めて見た…)と立ち尽くす杏花。


圭「入らないの?」

杏花「あ…親御さんは…?」

圭「いないよ。家にいるときのほうが珍しい」

杏花「そっか…じゃあご飯でも作ろうか?」

圭「いいの?」


頬を緩めて嬉しそうな顔を見せる圭に、思わず「かわいい」と思ってしまう杏花。


恐る恐る家に入ると、信じられないくらい綺麗で広い部屋。
(本当に社長の息子で御曹司なんだ…)と実感する。


辛そうにしながらも杏花のためお茶をいれようとする圭を慌てて止める杏花。


杏花「そんなの気にしないで寝てて!キッチン借りるよ、いい?」

圭「…ごめん、ありがと」


圭を部屋に押し込んで髪を結び、キッチンに立つ杏花。


○数十分後(圭の部屋)


杏花「入るよ、いい?」


作ったうどんを片手に圭の部屋のドアをノックする杏花。
部屋着に着替えた圭が出てきて、ふにゃっと笑う。


圭「おいしそう」

杏花「…そんなに料理うまいわけじゃないから、普通だと思うけど」

圭「手作りのご飯ってあんまり食べる機会ないから嬉しい」

杏花「そっか…ご両親も忙しいもんね」


圭はベッドに座って、近くのテーブルにうどんを置く。
嬉しそうに食べる圭に、うれしくなってしまう杏花。


ふとあたりを見回すと、圭の部屋はずいぶん綺麗に整理されていて、机の上には経済やマーケティングの本がたくさん積んである。

(バイトもして、こんなに勉強もして、それで私にも会いに来てくれてたのかな。大変だったんだろうな…
普通の大学生活のほかに、次期社長といての勉強もしないといけないんだもんね。遊んでるように見えて真面目なんだなぁ)



圭「ありがとう、美味しかった」

杏花「そっか、よかった。夜に食べられそうなおかずも冷蔵庫に入れておいたから、もし食べられたら食べてね」

圭「うん、ありがと」


熱のせいで少し潤んだ瞳にドキッとしてしまう杏花。


杏花「圭くん、忙しいのにわざわざ会いに来てくれなくてもいいよ」

圭「え…」

杏花「…そんなに無理して、会いに来ないでよ」

圭「…俺が会いたいだけだよ」

杏花「でもそれで無理して体調壊されたら嬉しくないよ」




困った顔をする杏花。眉を下げて、潤んだ瞳で上目遣いをする圭。



圭「…そんなこと、言うなよ」


そっと、圭の熱い手が杏花の頬に触れる。

杏花(熱い…ジンジンする…でもこれは、圭くんに熱があるからで…)



圭「杏花さん、俺のこと」

杏花(目が、離せない)


圭「好きになって」


そっと杏花の頬を撫でる、熱い手。
ドキドキして目をぎゅっと閉じる杏花。


杏花「っ…」

圭「…そんな顔しないでよ、我慢できなくなる」



ふっと笑って、手を離す圭。

杏花(…キス、されるかと思った。なんで私、避けようとしなかったんだろう…)




圭「杏花さん、もう遅いから帰っていいよ。ごめん、送って行けないけど…」

杏花「そんなのいいよ。じゃあお大事にね。何かあったら呼んでね」

圭「…ん、ありがとう。
いつも親が忙しくて風邪引いた時も1人だったから、今日、すげえ嬉しかった」

杏花「…そっか、よかった」




手を振って圭の家を出る杏花。
力が抜けたようにため息をつく。



杏花(どうしよう、このままじゃ私、圭くんのことー…)




スマホの着信音が鳴る。

『着信:西田 大輔』




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