届かぬ指先─映《ば》えない恋の叶え方

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カシャッ!


シャッター音の次の瞬間、スマホの画面いっぱいに鮮やかな桜色が浮かび上がる。

レンズの先に広がるのも一面のピンクの景色。溢れんばかりの、桜、桜…。
見上げる天も花に覆われて、肩にふわり、ひとひら花が舞う。


「ん、上出来」


私は写真の出来栄えに思わずにっこりうなづくと、スマホを手早く操作する。


『桜、満開🌸』


続けて『#Love』とハッシュタグを打ち込むと、たった今撮った桜色の写真を付けて送信ボタンを押す。すると、たちまちSNSのホーム画面にアップされる。


「よし!」

バッグにぽいとスマホをしまって、籐のバスケットの付いた白い自転車に足を掛けた。

満開の桜の下を走り出すと、若葉の香りを含む春の風を身体いっぱいに受ける。花越しに注ぐ木漏れ日がきらきらと瞬いて私に落ちる。


この霊園公園はこの辺りでは有名な桜の名所で休日にはたくさんの人が訪れるのだそうだ。
でも今日は春休みとはいえ平日。壮麗な桜並木の道も穏やかな雰囲気だ。
ハイキング姿のお年寄りの団体や折り畳みテントとボールを提げた子どもとお母さん、デート中の大学生っぽいカップルとすれ違って、夢のような花霞の中を走る。


4月の太陽の光が優しい午後。浴びる風が心地いい。


(そうだ、『学校』に寄っていこうかな)


花のトンネルを通り抜け霊園公園の大きな門を出ると、私は次の目的地を定めてぐんとペダルを踏み込んだ。
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