オトナだから愛せない
「いつだってどきどきさせられてる」




「ねぇ、ちょっと聞いて!」

「なに、由奈(ゆな)ちゃんどうしたの?」




お昼を食べ終え、いつもと同じように机をくっ付けたまま他愛も無い話をしていれば、突然由奈ちゃんが不機嫌気味に口を開いた。



さらさらのボブヘアを耳にかけながらため息を吐く由奈ちゃん。その姿に恐怖を感じた私と秋ちゃんは思わず顔を見合わせた。




「由奈どうしたの?もしかして、彼氏とまたなにかあった……?」

「……」




恐る恐る聞いた秋ちゃんに、由奈ちゃんの鋭い視線が突き刺さる。あぁ、これは間違いなくなにかありましたね……。



由奈ちゃんは2歳年上の大学生と付き合っていて、なにかあるごとに秋ちゃんと私は惚気や愚痴を度々聞かされていた。




「どうもこうも、あいつあたしと付き合ってるのに他の女と遊びに行ってたの!!」

「え、ふたりで?」

「そう!信じられないでしょ!」

「……なにかの間違いではなくて?」

「真実よ!!」




由奈ちゃんのあまりの勢いに私は黙ったまま怒りの原因を聞く。秋ちゃんはなだめるように由奈ちゃんに質問するけれど効果はいまひとつ。逆にヒートアップしているような気がする……。



ズズズッとオレンジジュースを飲み干した由奈ちゃんはダムが決壊したように溜まりに溜まった愚痴を言葉にし始めた。こうなってしまったらもう止められない。




「あの野郎を問い詰めたら、別に浮気じゃない!とか言ってちょっと出かけただけで由奈のこと裏切ったわけじゃないから、とか意味わからないことごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ言いやがって」

「……由奈ちゃん、だいぶ口悪いよ……」

「悪くもなるでしょ!ふたりで出かけた時点であたしのこと裏切ってるくせになに言ってんだって感じ!」

「まぁ、由奈の言いたいこと分からなくもない」

「でしょ!だから、一緒に出かけるだけであたしは裏切られた気分だ!って言ったらあいつなんて言ったと思う?」

「……」

「……えーと、いったいなんと?」




恐る恐る聞いた秋ちゃん。由奈ちゃんは盛大にため息を吐き出すと眉根に深いシワを作って空になったオレンジジュースのパックをぐしゃりと潰した。



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