冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
ある日の登校日。わたしは昇降口にて3桁のダイヤル番号を合わせる。

校内用のスリッパを入れてあるスチール製の下駄箱には、任意で三桁のロック番号を選べる。

わたしは、四、四、九(し、ず、く)に設定してある。しかし不思議な事があるものだ。
 下駄箱の小扉を開くと、空き缶が捨てられてあるのだ。

「鍵は閉まっていた筈なのに……」

まあ、何がある訳でもないとこの日はスルーしたのだ。

翌日、下駄箱には画鋲が十個ほど散りばめられていた。

翌々日である今日に至っては、購買で買われた物だろうか、食べかけのパンが捨てられていた。

ここまで来れば鈍いわたしにも察しが付く。
どうやらわたしはイジメのターゲットにされたようだ。

「番号を変えるか。忘れない番号にしないとね」

わたしは、五、八、六に番号を変更した。
それにしても一体、誰がこんな事をするのだろうか……。

一瞬、ある人物が脳裏に浮かんだが、彼女ではないだろう。彼女は面と向かってくるタイプだ。

どちらにしても犯人が分からないのだから、打つ手は無い。
 

 

(2)

 昼休み時間、図書室へと足を運んだ。

わたしはクラスの委員決めの際、図書委員に立候補したこともあり、昼休みと放課後にカウンター当番がローテンションで回ってくるのだ。
 
「それにしても、なんでこんな薄暗いところを図書室にしたんだろ」

図書室は校舎の一番奥にある。各教室から少し外れている為、生徒もまばらだ。

図書室に入ると、もう一人のカウンター当番である女子生徒と目が合った。わたしは直ぐに視線を外して作業に取り掛かった。

図書委員にはカウンター当番以外にも色々な仕事がある。
今から作業する、今週のおススメコーナーのお奨め本の入れ替えもその一つだ。

「相変わらずセンス無いわね。お猿さん」

そう嫌味を言ってきたのは、もう一人のカウンター当番である。坂口玲奈だ。

「そう言うなら、坂口さんも手伝ってよね」

わたしは彼女の嫌味に対してそう返した。
 
それにしても、合格した青楓高校を放棄してまでも北高に来るとは。彼女のヒロへ対する好意は本物のようだ。

「そうねー。この図書室には無い小説ならオススメがあるけど」

「この図書室にない?」

「そうよ。『姫は悪女を征伐します』って言うタイトルだったからしら」

な、な、何故コイツが……!
 
「何で! 坂口さんがそれを知ってるの!」

「偶々見つけたのよ。小説投稿サイトでね。作者名に本名を使うなんてどうかと思うわよ」

坂口はくるくるふるふわ巻きにした髪を揺らしながら、勝ち誇った笑みを浮かべた。

わたしはその忌々しい笑みを見て、直感的にある事に気付いた。

「坂口さんだったのね。ネットにわたしの小説を晒したのは」

「ええそうよ。それが何か?」

「やっていい事とダメな事ってあるよね。何でそんな意地悪するの?」

「被害者ぶらないでよ! 貴方の小説に出てくる、ざまぁされる悪女って私の事でしょ!」


「……考えすぎだよ」

「じゃあー、坂道玲奈って名前は偶然だとでも言うの。それに坂道って何よ! もっと捻りなさいよ! それに何で私が貧乏設定なのよ!」

「も、もういいよ。コレはお互い様って事で水に流そう。ねっ、そうしよ?」

わたしにも非がある。小説に出てくる坂道玲奈は貧乏でブスの設定にしてある。

しかも主人公の子分にするなどやりたい放題だ。逃げよう。ここは一旦退却が答えだ。

「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」

「待ちなさいよ! 逃げる気?」

彼女の制止を振り切り、図書室の隣にある女子トイレへとそそくさと避難したのだ。

トイレの個室に入り、ポチポチと携帯を触る。

「小説投稿サイトの作者名を変更してっと」

誰か入って来た音がする。

「もしかして坂口か?」

音からしてトイレの個室に入る様子は無い。代わりに洗面の蛇口から水が出る音がする。

「もしかして、バケツに水を溜めて上からわたしにぶっかける? ……まさかね。流石に坂口もそこまでやらないだろう」

わたしはそう思い、目線を手元にある携帯へと落とした刹那、上空から勢い良く水を浴びせられたのだ。
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