冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
体育の授業が終わり教室へ戻ると、チャットアプリの通知が届いていた。
タップして開いてみる。
グループ名は『臨時同盟』
わたしと小春、それにさやかと玲奈のグループチャットだ。
玲奈から『作戦成功。昼休みに図書室へ集合』と来ている。
それにしてもこのグループ名はダサい。玲奈が作ったのだが、どうも厨二くさいな。
鞄を確認すると、玲奈のハンドミラーは物の見事に無くなっていた。
「森さん。悪いけどちょっと図書室で用事があるから、お昼先に食べててよ」
「図書委員も大変ね。気にしないで。丁度、私も用事があったから」
彼女はそう言ってカラッと笑った。
「あっ、そうだ。そう言えばさっき体育館で蓮と何話してたの?」
「只の世間話よ」
「そうなんだ。てか、森さん蓮と話したりするんだね」
「……もしかして嫉妬心ってやつ?」
「ち、違うよっ! そんなのじゃないし。それに別に蓮は只の幼馴染ってだけだから。ホホホ」
「ふーん」
蓮への恋心は、心の奥の奥に秘めているつもりだが、それを見透かすかのような森さんに視線にそそくさと退散したのだ。
図書室へ入ると、臨時同盟の三人が揃っている。何故か雪ちゃんも一緒にいる。
昼休みが始まってすぐと言うこともあり、他に誰もいない。
「ゴメンゴメン! 待たせちゃったね」
「それより私のハンドミラーはちゃんと無くなっていたかしら?」
「うん。綺麗さっぱり無くなってたよ。本当に良かったの?」
「別にまた買えば済むわ。それより、私は先に見たけど犯人を確認して頂戴」
玲奈はそう言って、ノートパソコンの動画を再生させた。
誰もいない教室が映し出されている。消音になっているかのように静かだ。
「おいっ、これどうやって撮ったんだ?」
さやかが玲奈へと尋ねる。
確かに隠しカメラを設置していたとすると不自然だ。ズームやカメラの移動が行われている。
「掃除用具入れの隙間から撮ったのよ」
「マジか。隠しカメラの方が良かっただろ。リスクないし」
「私もそう思ったわよ。だって雪がやりたいって言う事聞かないから」
「一度こういうスパイ映画っぽい事、したかったんだよね」
雪は少し照れながら鼻を指でかいた。
なるほど。雪ちゃんは体育館から誰か外に出て行くのを見計らってから教室へと先回りしたのか。
わたしは雪ちゃんからパソコンの画面へと視線を戻した。
一分ほど誰もいない教室が映し出されていた後、教室のドアを開く音が聞こえた。わたしはゴクリと息を呑む。
カメラの焦点はわたしの机に当てられている。先に影が机に映り込み、その後犯人の姿が鮮明に映し出されたのだ。
「嘘っ‼︎」
わたしは無意識に声が出た。それと共に全身から力が抜け落ち膝から崩れ落ちた。
「大丈夫!」
小春がわたしを抱き起す。
信じられない。信じたくない。何かの間違いだ。希望的観測が頭を埋め尽くそうとするが、画面にははっきりと映し出されている。
––––––––そこに映し出されたのは森さんだったのだ。
わたしが森さんと友達である事を小春とさやかも知っている。
ショックを受けたわたしを気遣ってなのか二人は何も言わない。
「彼女がハンドミラーを取ったかは、角度的に映ってないけど、無くなっていたのなら間違いなさそうね」
玲奈は冷静に淡々と現実を述べた。
「雫、この後どうする? 彼女を問い詰めるなら力を貸すぞ」
さやかはそう言った。
問い詰める? 誰を? わたしが森さんを……。
昇降口の件も、トイレの事も、引き裂かれた体操服も全て森さんが犯人? あり得ない!
「待って、やっぱり信じられないよ。何かの間違いだよ。それにハンドミラー取ったところ写ってないし。ねっ?」
そう懇願してみたが誰も賛同しない。
どうやら結果を受け入られていないのは私だけのようだ。
沈黙が続く。
皆んなわたしに協力してくれた。わたしは次の行動を移さなければならない。少し落ち着いて思考を纏めようとしたその時、急に校内放送が鳴り響いた。
『一年三組の宮橋雫は至急、職員室まで来るように』
(2)
四人を図書室に残し、わたしは職員室へと向かった。
職員室に入ると、担任の内田が深刻な表情で待ち構えていた。わたしは訳もわからず彼女に連れられて職員室の奥に通された。
応接室に入ると、教頭と教育指導の先生が神妙な面持ちでソファーに座ってる。そして彼らの前には、クラスメイトの相楽と向井が泣きながら座っていたのだ。
「宮橋さんもここに座りなさい」
「は、はい……」
教頭に促されて彼女たちの隣へと腰掛けた。
「急に呼び出して悪かったね」
「いえ、何で呼び出されたんでしょか?」
「彼女たち二人が先ほど職員室に来て打ち明けたんだよ。スリッパを隠したり、君にトイレで水を浴びせたり、体操服を毀損させたって。後、これも彼女たちが取ったそうだ」
教頭は、先ほど紛失した玲奈のハンドミラーを机にコトリと置いたのだ。
意味が分からない。何でコレを彼女たちが? それに何故、彼女たちが自分から打ち明けたのかが理解出来ない。退学はないにしろ停学は間違いないだろう。
「加害者からの申告だったから、一応被害者の君にも確認しておきたくてね。今、言ったことは間違いないね?」
「えーと、二人がやったところは見てないですが、そういう事はありました」
わたしはそう事実だけを述べた。
その後、事実確認だけが行われた。
「それじゃあ、宮橋さんは退室してもいいですよ」
教頭は退室を促した。
二人を残し、担任の内田と共に応接室を後にした。そして内田に一礼して職員室を出たのだ。
「雫! 呼び出しの理由って何だったの!」
小春は心配そうにわたしの肩に手を添えた。
心配してくれたのは小春だけでは無いようだ。四人とも職員室前で聞き耳を立てていたらしい。
「よく分からないけど、同じクラスの向井と相楽がイジメの首謀者って自白したみたいなの」
そう言って、取り戻したハンドミラーを玲奈へと差し出したのだ。