その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「あー、危なかった。鍵かけといてよかったですね」
私は冷や汗が出るかと思うくらいドキドキしたのに、楽しそうに笑う広沢くんに呆れる。
「よくないわよ。あの人たちが戻って来る前にここを出ないと」
「そうですね」
そう答えたくせに、広沢くんはその場を動こうとせずに私をぎゅーっと抱きしめてくる。
「離して。早く行かなきゃ」
「わかってます」
だけど、彼の言葉は行動に伴わない。
「私はまだ仕事が残ってるし、広沢くんだって早く仕事終わらせないと秦野さんとの約束があるんでしょ?」
そう言うと、広沢くんが私を抱きしめる腕を緩めた。
「あんなに無防備にキスされといて、まだそういうこと言うんですか?れーこさん」
「やめて、そんな言い方……もう本当に仕事に戻るから」
広沢くんから顔を逸らしながら、さっきまでの自分を思い出して恥ずかしくなる。
雰囲気に流されてしまったとはいえ、職場で8つも下の部下に翻弄されてしまうなんて情けない。
今まで付き合った人とは、ちゃんと場を弁えてたのに。
私の態度に広沢くんが不機嫌になる気配を感じたけれど、これまでにない失態に彼の顔をまともに見られなかった。
それに、このままここにいて次に会議室を使う人たちに鍵を開けられたら本格的にマズい。