極上御曹司のヘタレな盲愛
「あの…そんな事より…ここはどこ?」

「…そんな事より…か…。ここは水島記念総合病院だよ…」

「そう…。あの…私…どうして…」

「お前は会社終わりに同僚と食事して、その帰りに歩道橋の階段の上から落ちて救急車でここに運ばれたんだ」

は…?

いくら思い出そうとしても、歩道橋から落ちた事など何も思い出せない。

同僚と食事って…美波先輩か恵利ちゃんだと思うけど…。
だって会社内で、就業後に食事に行く程仲の良い人間は2人しかいない。
訳あって同期の友人だって1人もいないし…。

でも、昨夜食事なんて行ったっけ?

私が歩道橋から落ちた事など何も覚えていないと言うと、大河の眉間のシワが深くなった。

だって救急車で運ばれたって言うけど、体のどこも痛くないよ…。

そう思っていると扉が開き、医師と看護師が部屋に入ってきた。

「水島さん、気づかれましたか?」

「?」

水島さんと言うから思わず大河の顔を見たけれど、医師が私の方を向いて言ったので戸惑う。

なんか言い間違えちゃったのかな?私…似鳥ですけど?
水島記念総合病院って言ったら、その名の通り水島グループの病院だ。
そのグループ直系の御曹司の大河がいるし…緊張しちゃったのかな?なんて考えていると…。

「ちょっといいですか?」

と言って、大河が医師と看護師を部屋から出るように促し、3人が出て行ったので、私は部屋に1人になった。

何?なんなの?

えっと…大河は、私が歩道橋から落ちたって言っていたよね。
ゆっくりと全身を動かしてみる。

うん、体に力が入らないような怠い感じはあるけど、手も足も全部動く。
どこか痛いかなと探ってみてもどこも痛くない。

本当に歩道橋から落ちたのかなぁ…。
そもそも、どこの歩道橋から落ちたんだろう。
先輩や恵利ちゃんとご飯に行った後に落ちたんだから、もしかしたら酔っ払っていたのかな?
だったら恥ずかしい!

そういえば…昨日、今日と…私は何をしていたんだっけ?…あれ…?


そこまで考えた時、医師と看護師と大河が部屋に戻ってきた。

「似鳥さん、どこか今、痛いところはありますか?」

今度は間違えられずにちゃんと呼ばれた。

医師の質問に、痛いところはないと答える。

「では…質問にいくつか答えて下さいね」

と言うのでコクリと頷く。

「まず、あなたのお名前を確認させて下さい」
「似鳥 桃です」

「現在の年齢はおいくつですか?」
「24歳です。11月の誕生日で25歳になります」

「ご結婚はされていますか?」
「していません」

なぜか医師が大河と目を見かわした。

「では最後の質問です。
あなたは歩道橋の階段から落ちた時に頭を強く打ったようです。
それで確認したいのですが…。
あなたが覚えている最新の記憶はどういうものですか?あなたの最後の記憶は…何月何日のものですか?」

「……えっと…」

昨日…私…何をしていた…?
あれ?昨日ってそもそも何月何日だった?何曜日?
思い出そうとしても、頭の中がモヤモヤしていて…思い出せない!

混乱する私に医師が「ゆっくり思い出して下さい」と言うが…。

「………」

なかなか思い出せない私に、大河が助け舟を出してくれた。

「…ニタドリの創業記念パーティーは終わったか?」
「うん、5月の末に終わった…」

「今は何月だ?」
「7月の終わり…?あれ?8月に入ったんだっけ…?」

「今年の部署の慰安旅行は?」
「行きたくない!だって…今年は営業2課と一緒だって言うんだもん!あ…ごめんね…。
でも、昨日お兄ちゃんに『社長の娘が慰安旅行をサボっちゃダメだ』って叱られちゃって…。
あれ?…昨日…?じゃないかも。…おととい?いつだっけ…?」

「慰安旅行が8月の最初の土日だから…その一週間前くらいだな…7月末か…。
慰安旅行には、まだ行っていないんだな?」

「うん…」

また大河と医師が目を見交わす。

「え?…何?」

不安になった私に、医師は端末に何やら色々打ち込んでから言った。


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