極上御曹司のヘタレな盲愛
入社して新人研修後、私は、同期の女子『麻美ちゃん』と2人で、今の庶務係に配属された。

麻美ちゃんは2つ年下で、可愛らしくて話しやすく、仕事が終わってから美波先輩と飲みに行ったりして仲良くなった。

私は友達になれたんだと思っていた。

配属されて半年が経った頃、私のデスクに置いてある私物が時々消えるようになった。

初めこそ盗られたとも思わず、どこかに自分で置きっ放しにして失くしたんだろうと、気にも留めていなかったのだが、何度も続き不審に思った。
思えば、中学時代も始まりはこうだった。

席の近くの誰かの仕業かもしれないと思うと疑心暗鬼になり、誰にも相談できずにいた。

そのうち、そんな行為はどんどんエスカレートしていき、私が発注しておいた備品がキャンセルされていたり、残業までして仕上げた書類が、翌朝出社したらファイルごと消されていたりした。

とうとう、更衣室の私のロッカーの中が、鍵を締めておいたにも関わらず、グチャグチャに荒らされ、私服が刃物でズタズタに切り裂かれてしまうという事が起こった。

誰かが私が席を立った隙に、引き出しにしまっておいた鍵を使ってロッカーを開けたのだろう。

居合わせた美波先輩が、ショックで涙ぐむ私を会議室に連れて行ってくれ、その頃まだ係長だった悠太も同席して色々と話をきかれた。

私は震えながら、当時自分に起きていた事を2人に話した。

後日、悠太が、ファイルデータが消えた当該の日の防犯カメラを確認すると、誰もいない中、私の席のパソコンを使っていたのは、同期の麻美ちゃんだった…。

ロッカーが荒らされた日、私のデスクの引き出しから何かをとる姿も鮮明に映っていた。

その日のお昼ご飯も、麻美ちゃんは私と美波先輩と3人で、社食で楽しくお喋りしながら一緒に食べていた。

食べている途中、偶々近くの席に座った光輝と大河に話しかけられたが、私はいつものように塩対応で、それに対して大河がしつこく嫌味を言ってくるので頭にきたが、思い返しても、麻美ちゃんはそんな私達をニコニコ笑って見ていた。

美波先輩も「そうだったわね」って言っていたし…。

あ!と私は気づいた!

私物が失くなった日、パソコンのファイルが消された日も…。
麻美ちゃんと一緒にいる時に、光輝と大河にバッタリ会って話しかけられていた。

それを悠太に言うと…。

「大河だな…。兄妹が話していても、そこまで嫉妬される筈がない」

嫉妬?麻美ちゃんが?私に?
私は全く信じられなかったが…。

翌日、悠太から話を聞いた大河が、電話で済むのにわざわざ名刺の申請書を私の所に持ってきて態とらしく私の肩に手を置き、耳元で「よろしく頼むな」と意味ありげにボソボソ呟いた。

部署の人たちはそれを見て騒ついたが、隣の席の麻美ちゃんはニコニコ笑って見ていた。

その麻美ちゃんを、斜め前の席から美波先輩が…、少し離れた所から悠太がコッソリと見ていた。

大河が戻ると少しして麻美ちゃんが
「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」
と、私にニコッと笑って席を立った。

その後を、時間をおいて美波先輩が追いかけて、悠太も後に続いた。

私は来ない方がいいと悠太に言われていたが、居ても立っても居られなくなり、悠太の後をそっと追った。

4階まで上がると、更衣室前で人の争う声が聞こえてきた。

更衣室前で、美波先輩が麻美ちゃんの腕をとり、何か2人で大声で言い争っている。
その横で、いつも優しい悠太が怖い顔をして仁王立ちしている。

麻美ちゃんの手には、備品のスプレー缶が握られていた。

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