極上御曹司のヘタレな盲愛

入籍

医務室のドアを開けると…白衣を着てこちらを向いた医師と目が合う。

「何だよ。会社では珍しい組み合わせだな。もしかして結婚でも決まったのか?」

「そうだけど違うよ…。ウサコ先生、桃の腕を診てやってくれ」


ウサコ先生は、宇佐美浩介さん。
ウサコ先生のお家は代々似鳥家の主治医で、先生のお父様も今の似鳥家の主治医だ。
宇佐美先生の息子さんでコウスケさんだから、私達兄妹や幼馴染の大河や悠太は、彼の事をウサコ先生と呼んでいる。

ウサコ先生は元々、手術をバリバリやっていた腕の良い外科医だったが、大学病院での派閥争いに嫌気がさしたとかで、お父様がやっていたニタドリの医務室に、引退するお父様と交代で産業医として昨年着任した。

表向きは派閥争いに嫌気がさしたと言っているが、本当はウサコ先生をめぐる女医さんや看護師さん、事務員さん達のバトルに嫌気がさしたんだと前に光輝が言っていた。

つまり、女性達が取り合う程の有能なイケメンという事だ。

年齢は30代後半で独身。
勿論、ニタドリの女性社員にも大人気だ。

カッコよく背の高いウサコ先生の事を、小さい頃から私も花蓮も大好きで、お父様について我が家を訪れていた学生の頃のウサコ先生に纏わりついて、よく肩車して〜と強請ったりした。

「あー、これは随分酷く憎しみ込めてやられたな…。取っ組み合いの喧嘩でもしたのか?
花蓮ならともかく、桃が喧嘩なんて珍しいな」

ウサコ先生が消毒をしながら言うので、大河と2人でさっきの状況を説明した。

「なるほど…モテる男は辛いな、大河」

「ウサコ先生程じゃ無いよ」

大河は軽く言ったが、すぐに心配そうにウサコ先生に訊いた。

「傷跡とか残んないよな?絶対に残んないようにしてくれ」

「多分、時間が経てば傷跡は残んないと思うけど…暫くは痛いかも…」

ウサコ先生は傷口にテープを貼り、ふっと笑うと私の頭をヨシヨシと撫でた。
もう!この人は私の事を、いつまでも小さな子供だと思ってるんだから!

私の頭を撫でているウサコ先生の手を大河がペシっと払い除けた。

「治療だけでいいんだよ。俺のなんだから、軽々しく頭撫でたりすんな」

「相変わらずだなぁ、お前」

ウサコ先生がお腹を抱えて笑った。

「昔からそうだったよな…。俺が桃や花蓮にせがまれて肩車とかしてやってるのを忌々しげに見てて、俺が帰るのを待ち伏せして…。
『桃は俺のだから、お前にはやらないぞ』って威嚇してきたよな。あれ、お前が小学生の頃だろう?」

「う、うるせぇよ!」

「ウサコ先生まで威嚇してたの?」

大河は顔を赤くしてそっぽを向いた。

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