【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
「明日、どこかに行くの?」


シンクにコップを置きながら「友達とライブに行く」と答えた。


今、私には友達がいるってことを、アピールしたかったんだけど。


母の注意はそっちにはいかなかった。
「ライブ……?」と眉をしかめて首を傾げている。


「芸能人とかじゃないよ。学校の、無料のやつ」

「あぁ、そうなの」


母の手はコンロに火をつけ、トントンと野菜を切り始める。


ライブって言ったら、母の世代では、ちょっと危険な場所に感じるのかな?


「危なくないところだから大丈夫だよ」


一応伝えると、母は包丁を持つ手を止めて、「そう、よかった。……楽しんでおいで」とほほ笑んだ。




朝が来た。


昨日より喉が痛い。体温計を脇に挟むと37.2度。微熱なら、大丈夫。

咳も出ない、きっとセーフ。


そう言い聞かせて、ベッドに寝転んだまま、カムの音楽を聴いた。


大賀君が作った曲を、何度もリピートする。


優ちゃんを想って、作った。

その事実だけでも十分泣けるのに、この人の声は、どうしてこんなにまで、切なくさせるんだろう。



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