ことほぎのきみへ
夏休みなんて言ってもやることはたくさんある

目まぐるしく毎日を過ごしていれば
休みなんてあっという間に過ぎていく



そうしてやってきたのは


お盆


死んだ人が帰ってくる日




「じゃあ、行ってくるな」

「うん」


玄関まで見送りにきた私を振り返るお父さん

頷くと、お父さんにくっついていた花菜が不満そうに私を見つめる


「…お姉ちゃんは今年も一緒に行かないの?」

「…うん。ごめんね」

「…。花菜、おばあちゃん嫌い」

「花菜。そんなこと言わないで
楽しんでおいで」

「……やだ。お姉ちゃんも一緒じゃなきゃ」



……困ったな

むくれながら私にしがみつく花菜を見下ろし、頭を抱える


「花菜。いろは姉を困らせるのはだめだ」


そんな花菜をいさめてくれたのが優


「だって……」

「帰ってきたら今度は四人で旅行だろ?
それまでがまんしような?」


「……。お姉ちゃん、寂しくない?」

「寂しくないよ。大丈夫
お友達が来てくれるから」



嘘をついた

本当はそんな予定はないけど

そうでも言わないと花菜は離してくれそうにないから

けど、その言葉に花菜は少しほっとしたような表情を見せて
しぶしぶ私から手を離す



後ろの優に「ありがとう」と目で合図を送る

優は笑って頷いた
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