そんな恋もありかなって。
minamiに寄っても始業時間まで余裕だと思っていたのに、いつもより遅い時間の電車とラッシュの人混みにまみれると思いの外時間を取られた。

小走りで事務所へ入ろうとすると、杏奈を追うようにして息を切らせながら時間ギリギリに滑り込んでくる同僚と鉢合わせになる。

「おはようございます、三浦さん。今日は遅いですね。寝坊でもしました?」

はあはあ言いながらも軽口を叩いてくる彼は、杏奈より二つ年上の配下社員だ。
年が近いとはいえ年上の部下で、喋り方にも気を遣う。
あまり丁寧でも上司としての威厳が薄いし、かといってフランクすぎるのもどうかと思うのだ。
要するに、杏奈にとってやりづらさこの上ないと感じていた。

「波多野さんこそ遅かったですね。」

「寝坊しました。超ダッシュしたし、腹減ったわー。」

波多野はどかりと自席に座ると、ネクタイを緩めてうちわで扇ぎ出す。
それを横目に、杏奈も自席へついた。

デスクの上に先程購入したminamiの紙袋を置く。
意外と大きくて、さてどこに片付けようかと思案してみたが、杏奈はふと思い立って波多野に声をかけた。

「波多野さん、朝食べてないの?パンでも食べます?」

杏奈は紙袋からパンをひとつ取り出すと、それを波多野へ手渡す。

「え?マジ?いいんすか?」

波多野は珍しいものでも見るかのように杏奈に視線を送ると、嬉しそうにパンを受け取った。

< 37 / 50 >

この作品をシェア

pagetop