君へのLOVE&HATE
「穂積くんって、イケメンね~もてるんじゃない?」
姉がなぜか上機嫌にずっと話をしている。
穂積は嫌な顔しないで答えている。

私たちが付き合っていないことも
今日はたまたま同じ班で買い出しの役割があって一緒にいたこと

姉の野次馬的な質問もきちんと丁寧に答えていた。

和樹くんは、一言も話ししないで手元のアイスコーヒーを見ていた。

「お二人は結婚されるんですよね。佐々木さんから聞いています」
穂積の話に姉がうれしそうに左薬指の光る指輪をなでた。

「そうなの。もうすぐ・・10月にね。私たち、まだ大学卒業したばかりで・お互い就職も決まっていて・・その矢先に・・・」
姉が愛おしそうに自分のおなかをなでる。
そのしぐさだけで何を意味するのかわかる。

「年末に家族が増えるの・就職したばかりで、悩んだけど、私はいったん子育てに専念しようかなと思って。かずくん・あっ、彼は中学の数学の先生なんだけど、彼とも話して私が仕事やめることにしたの」
「・・・紗希は弁護士の資格があるから、いつでも復帰できるんだ」
「うふふ。でもそんな甘くないよ~経験はぜんぜんないから。復帰しても新人とおなじだよ」
「紗希は優秀だから大丈夫だよ」

姉の言葉すべてが今の私にはまるで暗号のように聞こえる。
うまく頭にはいらない。

「お二人は、お付き合い長いんですか?」

穂積の質問に姉が。もうすぐ4年目になるの・・・と答える。

「すごいですね。4年もお互いだけ。みていたんですね」
和樹くんの表情が一瞬こわばる。
「うふふ、気が付いたらそれくらいになっていたからあまり実感ないのよね」
「・・そうだね」
「今日も、さっきまで結婚式場のプランナーさんと打ち合わせしていたの。かずくんも今日は早く仕事終われたから、二人でいってきたんだけど、そこでも付き合いの期間とかなれそめとかそういうのいろいろ聞かれたわ」

こまったような顔しているけれど、声はうれしそうな姉。
和樹君はただはにかんでいただけだった。

なに・・これ。

二人の話を聞くためのここにいるの?わたし。
姉は、聞かせたかったの?私に?

「でも、香椎くんが景都の彼かとおもっちゃった~。雰囲気が親密そうだったもの」
「あはは」

穂積はから笑いをする。

「ね。かずくんもそう思わなかった?」
「あぁ。そうだね」
「このまま二人お付き合いしたらいいのに。そうしたら私も安心なんだけど」
姉が私の顔を見ながら・・・表情は決して相手の幸せを願うような思いではない、そう、あえて誰かに見せつける、思い知らせるための・・距離を置かせるための布石をつけたと思わせるような…目をしていた。


姉のその目を見た瞬間。
足元が深い深い闇に落ち着ていく感覚を覚えた。

まるで自分の心が体から離されたような・・・。

そして、それはずっと感じていた疑念が確信と変わった瞬間だった・・・。


姉は私と和樹くんの関係を・・やはり知っていたのだと・・確信した。


息苦しい
もうだめだ・・
ここにいられない。
姉の前にいることができない・・・

泣きそう・・・。

必死で泣くまいと耐えていたけれど視界がにじんできた

その場から立ち去ろうとしたくても
身体が鉛のように動かない。


誰か・・助けて。




このままここにいたら私、壊れる。



両手をぎゅっと膝の上で握った。

まるで水のなかにいるかのように
まわりの音が曇って聞こえない。




誰か・・私をここから連れ出して。






気が遠くなるような感覚を覚えたとき
穂積の口から信じられないような言葉が耳に入った。

「俺たちまだ付き合ったりしていませんけど、俺は佐々木さんが好きなので、近いうちに恋人になれたらと思っています。」

えっ・・・

「まだ今は友達ですけど、今度は恋人として彼女の隣にいたいと思っています」

ガタン!

穂積が言い終わると同時に立ち上がる・
私の手を引っ張りそのまま肩を抱き寄せた。

「ほづ、。。あっ、香椎くん!」

思わず見上げたら穂積が今までにないくらい真剣な顔をしていた。

紳士的な笑顔もない・・
ただただ姉と和樹くんをまっすぐ見つめていた。

「それじゃ、俺たち用事あるのでこのへんでお先に失礼します。いくよ、佐々木さん」
そういうと、私の肩を抱き寄せたまま歩き出した。

「ほ・・づみ、穂積?・・穂積?」
「・・・・」
カフェの支払いもして

無言でがんがんと歩いていく。

「穂積!」
ただでさえ身長差で歩く歩幅も違うのに
穂積はがんがんと歩いていく。

穂積の、私の肩をつかむ手の力も強くて肩が痛い。

「穂積!・・穂積!・・肩痛い!」

穂積が急に足を止めた。


「景都・・泣いてる」
「えっ・・」

そういうと、穂積は立ち留まり抱いていた肩をぐっと引き寄せて
私を正面に向かせた。

「しばらくこのままで我慢してろよ」
私の頭に穂積の大きな手が置かれて
まるで子供をあやすかのように
優しくなでなでした。

「泣き顔。かくしてやるから」
「・・・・」

穂積の胸に抱き寄せられて
ますます感情があふれて涙が止まらない。

「泣いてて・・・いいから。」

穂積の胸のなかでうなずく・・。

何よ・・。
いくら身代わりにしていいからって・・
こんな時まで身代わり演じる必要ないじゃない・・・。


穂積は私がおちつくまでずっと頭を優しくなでてくれていた。

















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