キリンくんはヒーローじゃない
「ね、一緒に座ろう!」
「いいよー!楽しみだね」
周りでどんどん座席のペアが決まっていく中、わたしはハラハラしながら、まだペアが決まっていない子を見つけだそうと必死になる。
「あの…一緒にどうですか」
そうして、A組の人垣を掻き分けて歩いていると、三人で固まっていた女の子のグループが二対一に分かれる場面を目撃した。思いきって誘おうと声をかけると、その子は予想外のできごとに口をあんぐりと開けて、肩を揺らした。
「えっと…」
「驚かせてごめんね。無理なら全然構わないんだけど、…ダメかな?」
彼女は、なにかを伝えようと口を開くが、うまく言葉にできないようで、すぐに唇を引き結んでしまう。何度か、その攻防を繰り返したあと、ついに決意を宿した目でわたしを見つめると、大きく息を吸う。
「わかっ、」
「あっ!円香ちゃん、ここにいたの」
マドカちゃん、と呼ばれたその子は、横から現れた女の子によって、言葉の先を遮られてしまった。いたたまれなさを感じたのだろうか、マドカちゃんの瞳にはじわじわと涙が浮かんでくる。
「わたしと朱夏でペアを組んだけど、やっぱり三人で一緒になれないかと思って先生に相談してみたら、一番後ろなら補助席を使ってもいいって言われたの!」
「…えっ、ほんとう?」
「やったね!早速名前を書きにいこう」
マドカちゃんは、女の子の提案を聞くと今までの表情が嘘みたいに晴れて、嬉しそうに頷いた。
「うん!……狐井さん、ごめんね」
頷いたのを確認した女の子は、素早くマドカちゃんの腕を掴むと、ホワイトボードに貼ってあるバス座席の元へと、向かっていく。マドカちゃんは、人混みに紛れながらも制止の声をあげるが、足取りは止まらない。ならばと、勢いよく後ろを振り返ってわたしを捉えると、小さくだけれど、ごめんねと謝罪をしてくれた。