キリンくんはヒーローじゃない


「目つきが悪いからって見下してるってわけにはならないでしょ。それはただのあなたの主観だと、僕は思います」


彼は、今度こそわたしの手をとって、強く言い放った。

江藤先生以外に初めてだった。わたしの目つきをわかった上で、しっかりとわたしのことを理解しようとしてくれたひと。

彼の力の強さとは関係なく、さっきのように自分から思いきり拒否をすることができなかった。


「これ以上、狐井さんを傷つけるつもりなら、このことも江藤先生に言いつけようと思いますけど」


彼女は悔しさを隠そうともせずに、唇が切れて血が出てしまうほどに噛みしめて、わたしたちを黙って見つめた。


「狐井さん、行こう」


彼の手に引かれて、校舎裏から颯爽と駆け出す。怖いもの見たさで、チラリと後ろを振り返ってみれば、憎悪の湧いた目でわたしと彼を食い入るように見つめ続ける彼女の姿があって、明日からどう過ごせばいいのかと不安の波が押し寄せてくるけれど、何故だかあまり後悔はしていない。


わたしの手を引いて、一歩先をいく彼の存在があるからなのか、ぽっかりと空いて隙間風だらけだった心の穴は、"彼"のピースで埋まり、温かい空気にも触れられるようになった。


「ねぇ、…黄林くん」


あなたは、わたしを迎えにきてくれた、運命の王子さまなのですか?

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