キリンくんはヒーローじゃない
手を繋いで、奪って


「え、ちょっと待って。あのひと、誰?」

「めっちゃ格好いい!どこのクラスだろう」


キリンくんが突然のイメチェンを披露してから数日後、彼の顔のよさに気づかないものはいなく、学校中の女子から厚い視線を受けている。


しかもそれが、一年D組の黄林皐大だって知ると、普通は理想と違うと失望するものだけど、内に秘めてるところがミステリアスで格好いいと、なぜかプラスに捉えられているようだ。


「黄林くん!」


わたしの理想の男になると宣言してくれたはいいものの、こんな調子じゃあ二人きりになるのも難しくて、約一週間ほどまともに会えていない。


今日も、A組の教室から華麗に走り去るキリンくんを見て、他人事ながら大変そうだな、と思う。


机の上に広げていた教科書、ノート、筆箱を鞄の中にいそいそとしまいながら、ホームルームの準備をする。


「おい、狐井」


机の脚をガツンと蹴られたことで、彼女の存在を思いだした。相変わらず、力加減ができておらず、何度か空振りをしては、わたしの腿に当たる上履きが地味に痛い。


「お前、あの黄林皐大ってやつと付き合ってんだろ?大物釣りあげて、よかったじゃねぇか」


そんな根も葉もない噂、どこから仕入れてきたんだか。間に受けて、面白おかしく話しを広げるサジマが、惨めで怒る気にもならない。


「付き合ってないよ」

「じゃあ、振られたんだ?」

「そんな関係じゃない」


どうせ証拠もなにもないくせに、売り言葉に買い言葉で強気にでるサジマは、全く引く気を見せない。


妙な違和感を感じながらも、放っておいてほしくて、彼女から背を向ける。


「へぇー…、いい度胸じゃん?」


サジマのドスの効いた声に、寒気が走る。なんで、わたし、ここまで追い詰められているんだっけ。弱味でも握られてるのかな。

< 54 / 116 >

この作品をシェア

pagetop