この空の下
とにかく早くホテルから出ようと早足になり、フロント近くまで来たとき、


ドンッ。


ちょうど角を曲がってきた男性とぶつかった。


あっ。


そう思ったときには遅くて、
どろどろメイクと、グチャグチャの涙鼻水で、男性のスーツに隈取りができてしまった。


「ごめんなさい」

「・・・」

当然返事は帰ってこない。


「本当にすみません」

深々と頭を下げてから、男性の顔を見た。


うわー、いい男。


イヤイヤ、今はそんなこと考えてはいけない。


「すみません。クリーニング代を」

「結構です」

冷たい声。


「本当にすみません」

「もういいですから、どいてください。それに顔を洗ってください。恐ろしい顔をしていますよ」

恐ろしい顔って・・・


確かに、あなたは綺麗な顔をしているけれど。

それに年下みたいだし。
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