対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「恵巳、今日会ってみて、そんなに嫌な人だったの?お母さんは、うちの交流館のことは関係なく、恵巳に素敵な出会いがあればと思って承諾したの。だけど、拡樹さんともう会いたくないのなら、今回の話、断ってもいいと思うの」

母から差し伸べられた救いの手は、一本の蜘蛛の糸のよいに感じられた。だが、冷静になって考えてみると、断ることが得策なのかどうかはっきり答えが出せない自分に気が付いた。

「会いたくないっていうか…。どういう人かなんてわからない。変わった人だとは思ったけど…」

「だったらいいじゃない。もう一回会ってみたら?軽い気持ちでいいのよ。軽い気持ちで始まった恋のほうが、重たくなった時に気が付きやすいでしょ?
私のパパに対する気持ちは、最初から大きかったんだけどね」

「ママってば、恥ずかしいだろ」

母が父の腕をつんと突くと、同じように父も母の頬を突く。婚約の話はどこにいったのか。いつのまにか夫婦の会話になっていることに気づかない2人に冷めた目を向ける。

結婚生活が25年続いていようと、お互いをパパ、ママと呼び合い、娘の前でも気にせずイチャつく、いつまでも熱の冷めることのない夫婦。今の会話の流れでこのイチャつきに持ってこられるんだから、ある意味で感心している恵巳。

「あんまよくわかんないけど、わかった。自分で何とかしなきゃいけないってことが」

と、両親に助けを乞うことは諦めた。
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