対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
閉館時間を迎えた平安和歌交流館の一角で、こうして家族会議を開くのは今年に入って何度目だろうか。どんなに貴重な展示品が並んでいても、素敵な和歌が飾られていても、見てくれる人がいなければ、それはただの紙。

かつては平安貴族に仕えていた一族だったというのに、時代を超えた現代は、借金まみれの交流館。経営を立て直すためにあらゆる手を尽くしてきたが、いよいよ資金が底をついてしまったのだ。


「宣伝もして回ったし、地域住民に融資の依頼もして歩いた。だがもう限界だ。こうも客足が伸びないとなると経営にならん。赤字続きで、ついに銀行からの融資も断られてしまった。

それもこれも、あの日本歴史博物館とかいうのが近くにできたからだ。客が全部そっちに取られてしまった。宮園泰造、絶対に許さん!会ったら一発お見舞いしてやろう!」


恵巳の父は、館長としてどうにか再建を目指したが、どうにも頼りない性格が災いし、解決の糸口が見つけられなかった。

さらに災難は続き、数年前に大手の博物館が開設されてしまい、客の大部分を奪われてしまっている。博物館は、モダンな外観で雑誌にも取り上げられ、人を引き付ける企画展示が常に開かれている。

さっそく小学校の社会科見学先になっているらしく、細々と家族でやっている和歌の交流館など、足元にも及ばなかった。
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