拾ったワンコが王子を連れて来た

彼の実家に着いたのは予定時間より2時間も遅れての事だった。
旅館の駐車場へと車を入れると、旅館の中から従業員の方々だろう、沢山の中居さん達が迎えに出て来た。

えっ!
私達の事、お客様と間違えてるんじゃ…

無地の着物を着た仲居さん達の中に一人だけ、みんなと違って、刺繍の入った着物を着た、穏やかそうで、品の良さそうな…でも、それだけじゃ無くて、凛とした立ち姿は、仕事をしてる時の彼を思わせた。

きっと、女将…彼のお母さんだろう。

挨拶しなければと思った矢先、一瞬私と目が合った筈のその人は、私に対しては何も触れずに、彼へと駆け寄り、労いの言葉と笑顔を彼だけに向けた。

「お疲れさんやったねぇ。
早よう、中にお入りよし」

今、絶対に目が合ったよね?
もしかして、私の事無視した?
さっちゃんが言ってた洗礼ってやつ…?

「あの…は、初めまして、私…」

「お袋、彼女は、木ノ実真美さんで、俺達…」

「なんね!
遅れるなら遅れるって連絡ばよこさんね!
聞いとった時間にこんさかい、皆んな心配してたんよ?」

私の事は、ある程度彼が電話で伝えてる筈だけど、まるで何も聞いてないって感じだ。

これは、なかなか手強いよ…
どうする?
尻尾丸めて逃げ帰る?

ううん。そんな事出来ない!
既に覚悟決めて来たんだから!
ゼネラルマネージャーの力まで借りて、律子さんを彼から遠ざけたのに、このまま逃げる訳にはいかない。

「あ、ああ…路が混んでたから…それより、真美の事だけど?」

彼もお母さんの圧に押されている様、いつもの彼とは違う。

「ほれ、皆んなもボーとしとらんと、お客様をお部屋へご案内せな?」

女将であるお母さんは、彼の言葉さえも遮りながら、私をあくまでお客様として接する様で、仲居さん達へ女将として指示を出した。
今迄、離れて静観していた仲居さん達は、女将の言葉に、慌てて私の荷物を受け取りに寄って来た。

「いらっしゃいませ。
ようこそおいで下さいました。
お荷物はこちらお一つで宜しいですか?」

え?
いや…
それ…お姉さんの荷物で…
私の荷物じゃないんだけど…




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