エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない


『もしかして、なにかあった?』
芝浦の声と表情を思い出すと、いちいちガラスが舞い上がり心が傷つく。
それをわかっているのに、さっきの芝浦の顔と言葉が頭のなかでリピートされ続けていた。

つまり、芝浦の態度が最近変わった気がするだとか、もしかして女扱いされてる?だとか、そんなのは私の勘違いだったんだ。

いや、実際態度は変わったのかもしれないけれど、その理由は私がたどり着いた答えとは違っていたってことだ。

焦がれていた瞳を向けられた気がして、期待して、勝手に都合よく勘違いしたのは私だ。
だって、あの告白は私にしたものじゃなかったんだから。
それがすべてだ。

『好きだ。桜井』
あの、優しく回された腕も、信じられないくらい柔らかい声も、私に向けられたものではなかったのか……。

名前まで呼び間違えるなんて芝浦もどうかしている……と考え、それもそのはずか、とひとり納得する。
相手は酔っ払いだ。どうかしてるのは当たり前だった。

〝もしかして芝浦って私のことを……?〟なんて思えていた時にはハッキリわからなかった自分の気持ちを、可能性を絶たれて初めてしっかり気づくのだから救いようがない。

叶わないと知ってから、好きだと気づくなんて……どうかしているのは私のほうだ。

大きなため息を落としたところでホームにつき、入ってきた電車に乗る。
今週はあと三日も仕事に行かなくちゃならないことを考えると、またため息が出そうになった。

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