エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「本店営業部まで行ったら、沼田さんって子が教えてくれたんだよ。桜井なら給湯室だって。ついでに、白坂も一緒のはずなのにまだ戻らないって意味深に言われて、それで」

帰り道、並んで歩く芝浦が言う。
十九時。まだかずかに昼の色の残る空を、どんよりとした暗い色の雲が覆い始めていた。

十年前までは他人事だと思っていた温暖化を、ここ数年は身をもって感じている。私が実感するほどに今の日本の暑さは異常だ。

予報ではこれから夕立がくるらしいから、一雨去ったら少しは涼しくなるだろうか。
降り始める前に帰りたいけれど、暗い雲を見る限り、もう十分も持ちそうになかった。

鞄の中の折り畳み傘の存在を確認しながら「うちの部署まで来たんだ」ともらすと、芝浦は「避けられてるっぽかったから」と答える。

じっと横目で見られ、居心地の悪さを感じながら口を尖らせた。

「仕方ないじゃない。今、芝浦と顔を合わせたって冷静な話ができないと思ったから距離を置こうと思ったの。それに、そもそも芝浦が……」
「そうだな。俺が悪い」

責めようとしたところで、すんなりと言われる。
なんとも言えない不発感と罪悪感に挟まれながらも黙ると、芝浦はそんな私を見てふっと表情を緩める。

こんな顔も、最近まで見せなかった顔だ。

いつもの態度からは想像もできないほど……見てるこっちが溶けちゃいそうなほど柔らかく甘ったるい微笑みは、恋心を自覚した心臓に悪い。

ひとり不貞腐れていると、芝浦が「でも」と話題を変えた。

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