エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

知らず知らずのうちに、白坂くんを傷つけていたら申し訳ない……と思い言うと、彼は苦笑いのようなものを浮かべた。

こんな顔も珍しい。

「そんなの普通でしょ。俺だって、社長の血縁関係が同じ部署にいたら当たり障りないように接しますし。むしろ、桜井さんはもう少し遠慮してくれてもいいくらいには周りと差別せず本音で指導してくれてますよ」

「そう? それならよかっ……待って。私、そんなに失礼なこと言ったことある?」

安心しきりそうになってから発言の後半部分の意味を理解して聞きなおす。
変な気は使っていないつもりだけど、そこまであけすけに指導しているつもりもない。

「〝男だって今の時代お茶くみくらいしなきゃダメなんだから〟って」

アクセルとブレーキをスムーズに繰り返しながらの答えは、私自身には心当たりがないものだった。

「それは沼田さんでしょ」
「桜井さんも止めませんでしたし」
「まぁ、なんでも抵抗なくできたほうがこの先いいかなと思って。それに、白坂くんはきれいな顔してるからお茶持って行ったらお客様だって喜ぶし。……あれ、今のセクハラになる?」

たしか、男女関係なく容姿のことを言うのはダメだった気がする。
だからハッとして隣を見ると、白坂くんは真顔で言う。

「いえ。俺の心が広いおかげでセーフです」
「よかった。まぁ……話は逸れちゃったけど、なんでも言ってねって話。あと、知らない女性社員相手でも世間話くらいは付き合ってあげようねって話」

頭をシートのヘッド部分につけて言う。
白坂くんはやや不服そうな声を出した。

「後半部分、突然出てきたんですけど」
「実はずっと思ってたんだけど、性格だしなぁって遠慮してたの。でもこの際、言っちゃおうかなって思い切ってみた」

白坂くんはしばらく黙った。長い沈黙のあとで「……じゃあ、臨機応変に」と納得した返事をくれたのだけれど、その顔は言葉に反して嫌そうで思わず笑ってしまった。

本当に……嘘のつけない素直ないい子だ。



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