エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「アピール……?」
「それに、ちょっと面倒くさそうなヤツが出てきたからそれもあるかも。グラタン、もうよさそう」
芝浦に指摘され、レンジを切る。
開けてみると、上に乗せたチーズとパン粉がこんがりと焼けていた。
「俺が持つ。またやけどされても困るし」
ミトンをしながら言う芝浦に、苦笑いを返す。
「さすがにこんなぐつぐつしたのを素手ではいかないよ。じゃあ、テーブルにお願い」
収納棚のなかからガラス製の鍋敷きを取り出し、テーブルの真ん中に置く。
私がスプーンやら、冷蔵庫のなかのタッパーやらを用意している間に、芝浦がグラタンを運んでくれた。
あとは取り皿と飲み物を用意するだけだ。
作り置きしているウーロン茶を冷蔵庫から出しながら、さっきの芝浦の言葉の意味を考えた。
〝なにかしらあった〟
〝アピール〟
〝面倒くさそうなヤツがでてきた〟
それらを要約すると〝面倒くさそうなヤツが出てきたから態度を変えた〟ということになる。
「ねぇ。さっきのって仕事の話?」
ウーロン茶をそれぞれのコップに注ぎながら聞くと、芝浦はふっと笑って「さぁ」とはぐらかす。
まるで、クイズの答えを渋られているような心境だった。
「そういう風に、ヒント出して匂わせるだけ匂わせて答えを言わないってどうかと思う。ずっと考えちゃうじゃない」
ウーロン茶の入った容器をテーブルの上に置きながら不満に顔を歪ませる。
責められているっていうのに、芝浦は楽しそうに笑った。
「それ、いいかもな。ずっと考えてろよ、俺のこと」
ニッと口の端を上げた笑みが腹立たしい。
芝浦を見た目だけでキャーキャー言っている女性社員に、この憎たらしい顔を見せてやりたい。
「意地が悪い。ついでに性格も悪い」
私の文句にも芝浦は笑みを崩さなかった。
ふたりで囲むテーブル。
まぁまぁおいしくできたグラタンを食べながら、芝浦ってこんなに笑うヤツだったっけ……と考えていた。