私が恋を知る頃に
数日後……

「失礼します、清水先生と瀬川いますか?」

小児科の医局に響いた慣れない声……いや、正確には、ほぼ毎日聞いているんだけど…

「あっ、瀬川先生、来てくれたんだ」

そう言いながら清水先生は医局の入口へ向かう、俺もカルテを取って清水先生について行く。

なんというか…ちょっと変な感じ。

家ではほぼ毎日会うのに、ここ(病院)では科も、科のある階も違うから、白衣を着た兄貴を見るのは少し新鮮だった。

「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって」

「いえ、全然大丈夫です。むしろ、トラウマで悩んでいるお子さんの治療をしたくて精神科に行ったので、やっと念願叶うって感じで、力になれて嬉しいです」

「あはは、それならよかった。」

家で見る兄貴とは違う姿に少し戸惑っていると、本人から声がかかった。

「碧琉の担当の子なんだっけ、様子はどうなの?」

「えっ、あー……なんというか…、まだまともに話すらできない感じで、俺らを見る度に怖がって、いつも大体部屋の隅に布団被って座ってる感じ……です?」

「いいよ、病院内だからって敬語にしなくて。なに、緊張してんの?」

「べ、別に緊張してねーし。」

「あー、はいはい。」

病院内だから、かしこまった言い方をしないといけないかな…と思って少し戸惑っていたが、別に兄貴がいいならいいか。

敬語にした途端、一気にいつも家で話す時のような空気になる。

「そういえば、女の子の名前とかはわかったんですか?」

「いや、まだわかってないね。瀬川(弟)くんが頑張って話そうとしてくれてるんだけど、口を聞いてくれないどころか、怯えちゃって、あんまり近付くことも出来てないんだ。むりに近付くと、フラッシュバックするみたいで、パニックを起こしちゃうから…」

「なるほど……話を聞く限り、侵入症状と回避症状が強く出てるみたいですね。…ん~少し、今日会ってみて、話せたら話して、様子見てみましょうか」

「うん、そうだね」

真剣な眼差しで話す二人は、なんだか私生活で会う時の二人とは全然ちがくて、なんというか……すごくかっこよく見えた。
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