私が恋を知る頃に

穂海side

碧琉くんに見送られて、病院を出る。

病院の前には、既に車が止まっていてこれで施設に行くと職員さんが教えてくれた。

車の扉が自動で開き、乗るように言われる。

車は少しだけ…、いやかなり苦手だ。

どうしても昔のことを思い出してしまう。

…でも、車に乗らないと施設に行けない。

職員さんにも迷惑をかける。

そう思い、私は恐る恐る車に乗り込んだ。




乗り込んだ瞬間、"ダメだ"と思った。

車特有のにおいが記憶を甦らせる。

「…っ…………」

ずっと寒くて暗くてひとりぼっちが怖くて時間が無限に感じたあのときを思い出してしまう。

お腹が空いて喉が渇いて、でも誰も助けてくれない。

ずっとずっとひとりぼっち。

「……ぅ…………あ…」

体の震えが止まらない。

怖い、怖い、怖い

頭の中は完全に恐怖で支配されていた。

「どうしたの?」

職員さんが気付いて声をかけてくれる。

「…こ、わ…………」

震えと息苦しさで上手く言えない…

「怖い?」

コクコク

私は必死に頷いた。

「…車、苦手なの?」

コクン

いいから、早く外に出たい。

お願い、一度ドアのところから避けて…

息が苦しい




気付けば私は、職員さんを押しのけて外に飛び出していた。

「ゴホッ…ゲホッ……」

外に出たことで、幾分か気持ちが落ち着いて息が吸えるようになる。

でも、体の震えは止まってくれなくて、しゃがんで必死に自分の体を押さえ込んだ。

静まれ…静まれ……

施設では、いい子でいなくちゃいけない…

迷惑をかけちゃいけない…

落ち着かなきゃ、落ち着いて職員さんを押してしまったことを謝らなくちゃ…

そう思うけど、焦れば焦るほど余計体は言うことを聞かなくなる。

まだ、施設にすら着いていないのに

病院の目の前なのに、もうこの有様だ。

悔しくて涙が出てくる。

さっき、頑張るって約束したのに、もう守れていない。

苦しくて、胸が痛くて、碧琉くんに助けを求めたい。

碧琉くん、どうしよう、私もう苦しいよ…

助けて……
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