私が恋を知る頃に
他の人たちに倣い、自分でご飯をよそう。

おかずや味噌汁などが乗ったトレーを受け取ると、当たり障りのなさそうな端の席を選んで座った。

職員さんの合図で、一斉に「いただきます」の挨拶をし、各自食べ始める。

他の人たちは、友達と話すなどして各々食事を楽しんでいる様子だったが、私はまだそこまでは出来なかった。

まず、箸を持つことで精一杯。

周りを見ると、小さい子でさえ箸を使えていたので、最年長の私が箸を使えないなんて恥ずかしくて言えなかった。

箸を使うのは難しい

最初の持ち方までは上手くいっても、それを上手に使ってモノを掴むことが出来ない。

どうしても上手く力が入らず掴めないか、逆に頑張って掴もうとするあまり力を入れすぎて箸が滑っていってしまう。

はやく、食べなきゃ…

周りの子はもうとっくに食べ始めている。

焦りそうになるも、焦ったら物事はかえって良くない方向に進むことを思い出して、心を落ち着かせる。

大丈夫…病院では上手くいったこともあった。

できる、できる……

半分泣きそうになりながらご飯を掴む。

やっと掴めたご飯はたった1口分にも満たなかった。
< 184 / 281 >

この作品をシェア

pagetop