私が恋を知る頃に
「……穂海?起きてるの?」

その声に驚いて目を開ければ、いつの間に部屋に入ってきていたのか、ベッドサイドに立つ碧琉くんと目が合う。

「っ、あ……ご、ごめんなさい…、寝なきゃ、だよね」

もう消灯時間はとっくに過ぎている、なのにずっと起きていたから、きっと注意しに来たんだろう……

そう思って咄嗟に謝った。

でも……

「ふふ、怒ってないよ。」

その優しい声とともに、頭に降ってきたのは暖かい碧琉くんの手だった。

ぽんぽん、と頭を撫でられ、再度目を開け、碧琉くんと目が合う。

「……眠れなかったの?」

少し眉尻を下げ微笑む碧琉くんは、どうやら、私のことを心配してくれているようだ。

ふっと、緊張が解け、私は素直に小さく頷いた。

「そっか、そっか。じゃあ、眠れるように手繋ぐ?……それとも、何か考え事してたとかなら、少しお話しようか?」

……本当は、どっちもがいい。

でも、そんな我儘言えないから、どっちかにしなくちゃ。

「……お話、聞いてほしい」

少しでもこの不安を減らすために、今は話を聞いてほしかった。

私がそう言うと、碧琉くんはニコリと笑って私の手を取った。

「じゃあ、お話聞こうかな。どうしたの?何かお悩みですか?」

わざと敢えてお医者さんっぽい言い方で伝えてくるのは、私が言いやすいように、空気を軽くしてくれているのかな。

その配慮を嬉しく思っていると、碧琉くんはそのまま、さっき何気なくとった手を優しくその両手で包み込んだ。

「……!!……あ、あのね…」

「うん。」

まさか、手も繋いで貰えるとは思っていなくて、顔がぽっと熱くなる。

でも、碧琉くんは真面目に相談を聞いてくれるんだから、私も思ってたこと、ちゃんと聞いてもらおう……

「どうしたの?」

その優しい声と、包み込まれた手の暖かさは、私の緊張をいとも簡単に解いてくれた。

さっきまでつっかえていた言葉が、するすると口から溢れ出す。
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