私が恋を知る頃に
そのまま、穂海ちゃんは一睡もしないまま朝を迎えた。

でも、やっぱり眠たいようでちょくちょく船を漕いでいて、無理に我慢をしているように見える。

俺も朝まで病室にいたから、ついでに検温と軽く診察をしたけど、特に異常は無く、それなのにとやかく言うと穂海ちゃんにストレスをかけてしまう気がして、結局何も言えなかった。

これからどうしようか、悩みつつ医局でカルテの記入をしていると、先生方が次々出勤してきた。

清水先生も出勤して来て、隣のデスクに座る。

「おはよう、あれ今日早いねどうしたの?」

「おはようございます。実は、それなんですけど…」

先生に昨日の状態と事情を話すと、先生も前からそれについては悩んでいたようで…

「そうなんだよね…どうしても、夢の中でトラウマを思い出してしまうと寝たくないって言うよね、朱鳥もそうだった。1日くらいならいいんだけど…数日続くと困るから、もうそれに関しては様子見としか言いようが無いかな……」

「そうですか…、どうにか穂海ちゃんの助けになりたくて、何か出来ないかと思ったんですけど……」

「そうだよね、見てるこっちまで苦しくなってきちゃって可哀想だよね…でも本当にこういうのに関してはトラウマを取り除いてあげる他ないからさ……」

そう言う清水先生の表情はどこか寂しそうで、前苑のことを思い出してるんだとわかる。

「どうして、こんなに苦しまなきゃいけないんだ、なんで何の罪もない子がこんなに辛い思いをしなきゃいけないんだって、トラウマのきっかけを与えた奴が憎かった。……でも、いくら俺らが憎んでも過去は変えられないし、あの子たちの苦しみが無くなる訳じゃないんだよね…。こればかりは、本当にどうしようも無いんだ。」

きっと、清水先生は前苑をずっとそばで見てきたから誰よりも見守ることしか出来ない辛さを知っているんだと思う。

やるせない気持ちが胸の中でグルグル渦巻く。

「とりあえずまずはさ、手術に向けて穂海ちゃんの体調と心の状態を整えてあげて、万全な状態で手術に向かえるようにしよう。それが今の最善だ。」

「はい。少しでも、穂海ちゃんが楽になれるように尽力します。」
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