俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
 
(お正月、周防さんと迎えたかったけど……仕方ないか)

ランチのグラタンを食べながらひっそりため息を吐き出したとき、「椛田さん」とふいに呼びかけられた。

「あ、東條(とうじょう)さん。お疲れ様です」

顔を上げて見ると、テーブルの隣に背の高い男性の姿があった。

長身で、全身を黒のファッションでコーディネイトした気障なくらいイケメンなこの男性は、クリエイティブ部門のCD(クリエイティブディレクター)東條さんだ。私の直属の上司はADの三坂さんだけど、東條さんはさらに上の役職で、クリエイティブ部門全体を牽引していく立場にある。年齢は確か……まだ三十になったばっかりだっけ。

彼は大手広告代理店からもヘッドハンティングからくるほど有能なクリエイターで、周防さんと並んでこのしののめ広告を支えている実力派と言っていい。もちろん私もクリエイターとして彼に尊敬の念を持っている。

「食事中に声をかけてすまない。今やってるコンテ、出来たら俺に送ってくれ。今日は三坂さんが風邪で休んでいるから俺がチェックする」

「分かりました」

用件を伝えると東條さんは「食事中に邪魔して悪かった」と軽く頭を下げてから去ろうとした。そして一歩進んでから振り返ると、「風邪が流行っているらしい。きみも気をつけなさい」と付け加えた。

「ありがとうございます」とお礼を言いながら、奥の席に歩いていった東條さんを見て密かに感嘆する。

(東條さん、なんか丸くなったなあ)

彼が超有能なのは私が入社したときから変わらないけれど、以前はもっととっつきにくかった気がする。人当たりがよくないというか、コミュニケーションがあまりうまくないというか。

(クリエイターとしても天才で人当たりまでよくなったら、東條さん完璧人間じゃん。すごいなあ)

私も早く東條さんみたいなCDになりたいと思う。いや、その前にADが先か。

「よし! 午後も頑張ろう!」

気合を入れると、私は手元のランチプレートを綺麗に食べつくし、意気揚々と席を立った。
 
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