赤傘
雨の日に
慎ましやかに降り出した雨に顔を見合わせる。
黄色や赤、緑などの色鮮やかな傘。
カラフルな花みたいだ、なんてあいつが言う。

晃(あきら)、それが隣にいる旧友の名前だ。

こいつとはもう長い付き合いになる。
出会いは高校時代だったか。

俺の姉貴が彼氏として家に連れてきたのがこいつ。
高校は違うが年齢は同じだし、まぁウマが合うって事で、こいつが姉貴と別れても大人になるまで付き合いは続いた。

しかしお互い歳を重ねると色々あるもので。
今日は数年ぶりに連絡を取り合って食事でも、と誘ったのだ。

出掛けにヒステリックな妻には『女と会うのか』と散々詰られたが、頭を下げてでもこればかりは外したくなかった。

「天気予報通り、だね」

食後の珈琲を啜りながら晃は微笑んだ。
俺は頷き、洗濯物は中に干しておいて良かったと心の中で呟いた。

「君ってほんとに変わらないよね」
「ん?」
「だってさ、僕達もうアラサーじゃあないか。なのに君は全然変わってない。ほんと羨ましいなぁ」

頬杖ついて頬を軽く膨らませている。
彼こそ何も変わっていないようにみえるが。
少なくても俺はだいぶ変わってしまったな。

「お前も変わってないだろうが」
「ふふっ、そうかなぁ。この前老けたって妹が」
「その歳で老けてたまるかよ」
「だよねぇ」

くすくすと楽しそうに笑う顔はあの頃のままだ。

「……久しぶりに思い出話が出来て楽しかったよ」

空になった珈琲カップが微かな音を立てる。
外はまだまだ雨が降っているようだ。
傘をさした人々が足早に行き交う姿が見える。

「おい」

伝票に触れた、晃の細っこい手を少し強引に掴んだ。

「もう少し付き合え、いいな?」
「………」

数秒にも満たない沈黙。

ふっ、と彼が息を吐いた。

「まったく。相変わらず強引なんだから……いいよ」
「変わってねぇだろ、お互い」

立ち上がった瞬間。
ポケットの中のスマホが振動し着信を知らせた。

………俺は素知らぬふりで無視をした。
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