転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
 ヴィオラは、彼のようにはなれない。

 それでも――、彼のようにはなれなくても、ヴィオラにできることもきっとある。

「また、ヤエコ様がいらっしゃるまでに、おいしいお菓子を考案しておきます。タケル様も一緒にいただきましょう」

「それは、楽しみだね。そうそうヴィオラ。私もタケルも、まだ諦めてはいないから」

「そ、それはどうでしょう……?」

 人質ではないとわかってくれても、まだ、ヴィオラとタケルを結婚させるということはあきらめていないらしい。

 ヴィオラはますますリヒャルトにすり寄り、リヒャルトはそんなヴィオラの肩に手を回す。

「ヤエコ殿、それは、ヴィオラが成人してからの話だ」

「まったく、アデリナにはまいったね。大急ぎで使者を走らせるとか――けれど、三年後には、タケルもきっといい男になると思うよ。頭は悪いがね」

 からりと笑って、ヤエコはタケルのあとを追いかける。残されたヴィオラは、心の中でつぶやいた。

(三年たっても、きっと、タケル様に今みたいな気持ちを持つようにはなると思わないんだけど……)

 リヒャルトの顔を見上げると、ヤエコとの会話でいろいろ思うところがあったようだ。彼は、ヴィオラの方へ長身をかがめてささやいた。

「もう、夜も遅い。部屋まで送るから、明日に備えて早く寝るんだ」

「はい、リヒャルト様」

 ヴィオラは心の中でつぶやく。

また、子供扱いだ。だが、今はまだ、これでいい。
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