銀のナイフと薬を手にして
「そう言えば買ってきてもらった白ワインも、良かったら開けてもいいかな?」
「あ、ぜひ。微発泡の白なんてあるんですね。お店で教えてもらって初めて知りました」
彼は、このワインに合いそうなものがあるんだよ、とピンク色の小箱を取り出した。

「これ、蟹と一緒に届いたお菓子なんだけど」
ころんと丸い苺のお菓子だった。金色の混ざった薄紅色の粉がまぶしてある。
グラスに口を付け、お菓子を齧ってびっくりした。

「苺が乾燥してるから、しゅわっと溶けて、ちょうどいいでしょう」
シャンパンほど炭酸のきつくない、フレッシュな白ワインに苺の甘さが溶ける。さくさく軽くて、まわりはホワイトチョコなのに全然しつこくない。

思わず笑顔になったら、中岡さんも目で笑った。そろそろかも、とわたしは肩に力を入れた。
だけど中岡さんはゆったりと向かいのソファーに腰を下ろした。
「元気がないときに口説いたりしないから。のんびりして行きなよ」

気付かれたんだ、と恥ずかしくなりながらも、いっぺんに力が抜けてソファーにもたれた。

最後に甘いものを食べて、ようやく一区切りついた気がした。食事も落ち込みも。
ワイングラスを揺らしながら、夜空へと視線を向ける。月までもが、柔らかくストロベリー色に光っている。
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